なろう異世界史
―――とある異世界の国の辺境の死の大地の一角の一軒家の農地にて。
勢いよく流れる川のほとりに陶器と木材、蜜蝋や動物の皮などで水漏れ、空気漏れを防いでいる水撃ポンプの音が響き渡る。
勢いよく蛇口から水が溢れ、農地へと水が行き渡る。
そこに、魔術で作り出したであろうゴーレムのようなものが作物を収穫していた。
トマトにきゅうりにじゃがいも、季節感が違うが様々な野菜や果物を収穫している。
決して、ほかに売ることも考えてはいない家庭菜園のような農地だ。
農家に特化したスキル持ちで、ハーバーボッシュ法まで使えてしまう転生者だ。
そして、自身の能力で作り出した、その出来栄えに、もぎたてを食べて満足そうに好々爺が微笑んでいた。
その人物はこの異世界に転生してきた転生者である。
そんな好々爺に孫であろうか? ゆっくりと好々爺に向かって歩いてきて話しかけてきた。
「ねぇ、おじいちゃんって転生者なんでしょ?」
「そうだね。それがどうかしたのかい?」
「なら、アイテムボックス持ってるんだよね?」
「ああ、もってるな」
「それに、転移もできるんでしょ?」
「ああ、できるぞっ! それ」
そういうと、孫にいい所を見せたいのか、少し違う場所に転移する。
「もう、戻ってきてよ。そっちにいくのめんどくさ~い」
「ああ、悪い悪い。そら」
と、一瞬で元の位置へと戻る。
「ねぇ、そんなに簡単にできるのに、なんでおじいちゃんは商売しなかったの? お金持ちになれるのに」
と、不思議そうに孫は好々爺に尋ねてくる。
「そうだなぁ~。力にはな、使ってもいい力と使ってはいけない力があるからなんだよ。分かるかい?」
「ん~~~、分かんない。でも、便利な力なら使えばいいんじゃないの?」
「そうだね。人は便利すぎる力を持ちすぎるとね。楽をしたがるもんなんだよ。そして、得てしてそういう力を乱発すれば、ロクなことにはならないんだ。分かるかい?」
「わかんないっ! だって、楽になるならいいんじゃないの?」
「楽になるのは一見いいことのように思えるけどな……その先には、後悔が待ってることも多いんだ……そうだな。じゃあ、一つ面白い話をしてやろう」
「聞かせて! 聞かせてっ!」
「昔な、おじいちゃんが若かった頃、そうだな、六百年ほど前になるだろうか……あの頃のわしは力というものが分かっていなかった――」
―――回想
あの頃はまだ、この異世界もブルーオーシャンで転生者も少なかった。
だが、年数をかせねていくたびに転生者が増えてゆき、徐々にレッドオーシャンと化してきたのじゃ。
それは金融、医療、人種問題、特に魔術と医療が発展し、ブレイクスルーを起こして、もはやエルフは長寿ということもなくなりつつあり、魔族、亜人に人、その全ての人種が、人生千年時代を迎えるのにそんなに時間はかからなかった。
その中には、700歳、500歳問題も起こった。
長すぎる人生と労働に疲れ果てて、引きこもる500歳の人々。
それを支える700歳を超えた老人。
引きこもる年月は百年単位になっていった……
そして、物流も問題を抱えてしまった。
しかも、アイテムボックスと転移による経済圏の破壊を起こしてしまったのじゃ。