後輩の意地 先輩の気遣い
そこに水を差すのは無粋というもの。それに、タイマン勝負なら白虎は負けはしない。
後輩の実力を信頼し、漢気を買った青龍は、妻と密かにアイコンタクトをとってから、彼の申し出を承諾した。
「わかった。そうさせてもらうよ。大牙君、お互い頑張ろうね」
「先輩こそ、気を付けて」
「ありがとう。それじゃあ……行くよ!」
「うっす! おら、黄泉っ! 俺はここだ! 相手をしてやるから、撃ってこい!」
挑発の言葉と共に、白虎は黄泉がいる大広間に勢いよく入ると、向かって左側の壁に沿って走りながら、注意を引きつける。
その間に、青龍は妻の手を引いて、逆方向から大広間の突破を図るが、黄泉が入ったカプセルの周囲にある何かを感じ取り、扉からの脱出を断念する。
他に退路は無いか。周囲を見回し、探していると、30メートルほど上にある天井に取り付けられた天窓を発見した。
(あそこしかないか)
白虎の時間稼ぎにも限界がある。道を選んでいる余裕はない。青龍は妻をお姫様抱っこすると、
「しっかり掴まって。跳ぶよ」
と、だけ言って、困惑する妻を抱えたまま、壁とカプセルを足場に連続ジャンプをし、妻の絶叫と共に天窓から外に出た。
人間離れしたこの動きには、白虎も思わず感嘆の声を上げる。
「先輩、かっけー。よーし! 俺もいっちょ、いいところ見せるとしますか!」
先輩に負けじと、自らを鼓舞した白虎は、黄泉が眠るカプセルに向けて、拳を構えた。
援軍どころか観客すらいないが、そんなことはどうでもいい。1人でも、必ず目的を果たしてみせる。そう心に決めていた。
のだが――
「頑張ってください。大牙さん。あなたの勇姿は、龍さんの代わりに私が見届けます」
青龍と共に行ったはずの鳳凰からの応援に、白虎は誰もいないと思ってはりきっていた分、盛大にズッコケた。
おかげで、死角から放たれた念動光線をギリギリ回避することはできたが、これには感謝より先にツッコミをいれたくなる。
「なんでいるんすか! 王賀先輩!」
「治療をするために残ったんです。大牙さんの手当てもそうですが、カプセルから出た黄泉さんが、衰弱死する恐れがありますので」
それが、鳳凰が残った理由であり、青龍のアイコンタクトの意味でもあった。
「そういうことっすか。かたじけないっす! そんじゃあ、そこで見ててください! 男・白橋大牙、一世一代の大勝負を!」
鳳凰が残ることを認めた白虎は、気を取り直すと、邪魔な遠隔操作兵器から片付けようと挑んでいった。




