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運命の悪戯

 今回の知らせを受けた時から、神楽はそのことをずっと考えていた。


「なので、どうか、姉さんの命に一時の猶予を与えてください。救出した後で、更正の余地が無ければ、その時こそ、始末していただいてもかまいません。勝手は承知の上ですが、どうかお願いします」

 かつての依頼人である神楽からの懇願に、鳳凰達が困惑する中、白虎は頭を人差し指で掻きながら溜め息をつくと、


「ま、考えときます。今はそれどころじゃないっしょ」

 と、はぐらかし、研究所から出てきたデミ・ミュータントに向かって、先手必勝とも言える掌打を叩き込み、突破口を開いた。


 やっぱり、我が儘な願いだったのか。落胆する神楽に、青龍と未来は優しく声をかける。


「心配しなくても、きっと大丈夫ですよ。神楽さん」


「そうですよ。大牙君なら、あなたの意を汲んでくれるはずです。それに、彼女のことを救いたいと思っているのは、僕らも同じです」

 殺した相手を救いたい。矛盾しているが、そこには青龍なりの考えがあった。


 青龍はこれまで、数え切れないほどの人間を殺めてきた。

 それらの行為は、自らの殺人衝動と辛い記憶を鎮めるためにやってきたことだが、彼らを殺したことで、救われた人も大勢いる。それもまた事実。

 だが、優しい性格の彼は、時々こう思っていた。


『あの人達も、正しい人生を歩んでいれば……』

 と。

 今回の一連の事件にしてもそうだ。京介も、源士郎も、鶉も、焔司郎も、取り返しがつかないほど人格が歪んでしまっている。それこそ、説得に耳を貸さないほどに。

 故に対立し、殺された。それはかつての黄泉もそうだった。


 それでも、彼女は甦った。

 悪意ある人間の野心の道具としてではあるが、失敗することなく、今日まで生きてこられたのは、神様が黄泉の歪みを正す機会を与えてくれたからに違いない。

 殺し屋にしては甘すぎるタラレバをずっと思っていた青龍にとって、この運命の悪戯は千載一遇のチャンス。見捨てるつもりなど、ハナからなかった。


「ですから、神楽さん。あなたは龍と大牙君がお姉さんが連れて帰ってくるのを信じて待っていてください。2人なら、きっとやってくれます」

 青龍の願望と未来の言葉を聞いて、神楽も安心したようだ。青龍達を信じ、了解する。


 やることは増えたが、望むところ。神楽の祈りと岩男のエールを受けた青龍と未来は、白虎と鳳凰の後を追って、研究所の中へと足を踏み入れた――――

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