2度目の依頼
午後6時頃。諸々の説明を受けた青山一家は、所内の食堂で少し早めの夕食を食べていたが、龍の箸はあまり進んでいなかった。
「はぁ……」
「龍君、食べないの? 意外といけるよ。ここの塩ラーメン」
「あ、あぁ、うん。食べるよ」
柚に促された龍は、麺を数本啜った。
「まぁ気持ちはわかるで。お互いわかった上で会ってるんならまだしも、そうでなかったらうちも依頼人と会いたぁないわ。気まずぅてしゃーない」
「彼女、龍さんの依頼人だったんですね」
「うん。中学2年の時にね。その時は、いじめっ子数人を殺してくれっていう依頼だったんだ」
「で、その報酬を突っぱねたから、あの子はあぁ言ったってわけか」
「みたい……だね」
そう言って溜め息をついた龍は、食事を続けつつ、ブリーフィングでのことを思い返した――――
ここまで気分が重たくなったのは、やはり彼女と彼女の依頼に原因があった。
「――軍事用デミ・ミュータント研究の第一人者・敷島京介と、特捜5課の相談役である犬飼源士郎、それと、火口焔司郎という男を殺してください」
芹が指定したターゲットの名に、龍と未来は誰よりも強く反応した。
というのも、主犯格と目される京介は、かつて未来の両親の助手だったこともあり、叶教授の娘で被験者でもあった未来とかなり親しい関係にあった。それこそ、両親の葬儀にも出席するだけでなく、龍と共に悲しみに暮れる彼女を慰めるくらいに。
そんな男を殺せと言っているのだから、復讐の機会を得た柚と違い、龍と未来が言葉を失うのは当然の反応である。
「ペガサス君の調査によると、彼は現在、指名手配犯として逃亡しつつ、秘密裏にデミ・ミュータントを量産しているらしくってね。そうして強化されたのが、黒龍や紗那さん、それと聖民党に雇われてた傭兵連中だったんだ」
「その傭兵のことなんだが、どうやら命令権は奴らにあるらしくてな。戦える面子だけ召集して、不用意に挑んだら、指示を受けた傭兵が家族や恋人に危害を加えるかもしれない。つーわけで、果林ちゃんと蒼子さん達にも来てもらったってわけだ」
ペガサスらがここに集めた真意についてはわかった。軍の施設は頑丈で迎撃設備も整っており、秘匿性や居住性も高い。戦えない家族を守るにはうってつけの場所だと言えるだろう。
そして、もう1つ判明したことがある。3年前の死獣神とブラック・ナイトの決戦と先日の聖民党の一件。この2つに敷島京介が関与していたということだ。
これは京介=黒幕説も濃厚かもしれない。血の気の多い大牙と雲雀は俄然気合が入る。