死してなお続く執念
やがて、闇が晴れると、そこには返り血を浴び、元の姿に戻った黒猫だけが立っていた。
「やったのか?」
「えぇ確実に。それにしても、不思議ね」
「何がだ?」
「復讐なんて、虚しいだけで決して望ましいものじゃないってことは、今の私ならわかる。それでも、心なしか清々しい気持ちになれた。パパ達の仇をようやく討てたからかな?」
復讐を果たした自らの気持ちを自己分析する黒猫に、忍は聞いてみたくなった。
「……もし、青山龍を殺していても、同じように思えたか?」
「ううん。龍君を殺していたら、多分私は、自分を見失い、空虚な存在になっていたと思う」
「何故だ?」
「だって龍君は、優しくて他人第一で、罪の意識を抱えて生きてる人だから。そんな彼だから、私は愛してるの」
返り血を拭いながら断言した黒猫の言葉に、忍は納得しつつも、鼻で笑った。
「人の親を殺してすぐ、ノロケ話をするな色ボケのチビ猫」
「うっ、それもそうね」
「だがまぁ、その判断は正解だったな。お前にはあの男がお似合いだ。これからも絶対に離すな」
「わかってる。独身街道まっしぐらのお局様に言われなくても、ね」
「なっ!? 貴様!」
柄にもない祝福に対し、余計な一言を言われた忍は、噛みつくような勢いで、小悪魔のような笑みを浮かべる黒猫を怒鳴った。
と、そこへ、鶉との戦いを終えたばかりの朱雀も合流した。
「おっ、そっちも終わったみたいやな」
「雲雀さん。ということはそっちも?」
「あぁ、何とか片つけてきたで。他のみんなもあと少しで制圧できるやろ」
それが完了すれば、紗那を守るというこちらの目的は達せられる。幹部を失ったこともあり、最早、時間の問題だろう。
だが、休んではいられない。少人数で敵の本丸に乗り込んだ青龍らの加勢に向かわなければならないからだ。
時間が惜しいと考えた黒猫は、一刻も早く瞬間移動で運んでもらおうと、ペガサスがいる屋上に行こうとした。
その1歩を踏み出した矢先だった。黒猫は突然吐血し、倒れ込んでしまった。
「ちょっ、どないしたんや、柚!」
心配した朱雀が必死に揺さぶるが、反応がない。見るからに瀕死な状態である。
そうなった原因について、忍には心当たりがあった。
「はっ、まさか、さっき口に叩き込まれた血槍で、お父様の血が?」
「なんやて!? それって、龍の時と同じやないか!」
朱雀はそう言うが、事態はあの時よりも深刻である。
最後の血槍をくらわせた時、源士郎はヨルムンガンドスラッシャーで右腕を切り落とされていた。
その際、彼の体内に入り、魂を蝕んだ黒縄毒が、血槍による輸血によって、黒猫の体内に送られた可能性がある。
朱雀が当初から懸念していたことが現実となったのだ。
黒猫の命が風前の灯火だということを察した2人は、ペガサスを呼び、ダメ元でもいいから治療してもらうよう求めた。
討ち取られてもなお、道連れにしようとする源士郎の執念。それを振り払うだけの生命力が、はたして彼女にあるのだろうか――――?




