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夜叉・終極

 その胸中には、最早、信念も正義もない。意地だけが彼の闘志を支えていた。


「呆れた。ここまで愚かだったとはね。なら――」


「させんと言っているだろう。チビ猫!」

 黒猫に先を越させまいと前に躍り出た忍は、躊躇なく斬りかかったが、


「邪魔だ、忍っ!」

 虫を払うかのように振られた鮮血の大太刀によって、薙ぎ飛ばされ、刀と腕の骨を折られる。


「うっ、お、父、様……」

 実の娘を負傷させ、戦闘不能にできたことに、源士郎は満足するが、それが仇となった。忍に意識を向けたことで、黒猫への注意を疎かとなる。


「ペガサス君、今よ!」

 黒猫が合図を出すと、それに応えたペガサスから、ヨルムンガンドスラッシャーをもう1組と黒龍千鱗腕が投擲される。


「させんっ!」

 このまま黒猫に武器が渡れば、勢いづかせることになる。

 それを何としても阻止したい源士郎は、悪足掻きとも言える血槍を黒猫の口に叩き込んだが、黒猫は喉の奥を刺されながらも、それを噛み砕いた。


「な!?」


「血の味は嫌いじゃないよ。それに……もう無駄よ。何もかも」

 硬質化した血を吐き捨てた黒猫は、デビル化すると、口に菊一文字零式・真打、手と臀部の器具にヨルムンガンドスラッシャー2本ずつ、足に黒龍千鱗腕を装備し、見慣れた四つん這いの体勢となった。


「私の全身全霊を込めた最後の夜叉で、あなたを葬る。覚悟!」

 そう発すると同時に、闇で自身と源士郎を覆った黒猫は、ナイトメアブレードを広範囲に広げた状態で、夜叉を食らわせた。

 本来なら、足場がない屋外では不向きなこの技。しかも、装備を増やしている分、どうしても従来の夜叉よりスピードは落ちてしまう。

 その欠点を補っているのが、異端種の魔族と化した彼女の力だ。

 具体的には、エネルギー生命体であることを活かして、両者を包み込んだ闇を蹴って跳躍したり、刃の重量と闇の力をフル活用して、一撃に重みを加えている。


 そうした工夫によって、寧ろパワーアップした闇の刃の嵐に四方八方から襲われて、ただで済む人間はいない。肉体を抉りとられた源士郎は生命の危機を感じたが、時既に遅し。気付いた時には、闇から逃げ出させないように、全てのナイトメアブレードが彼の四肢を貫いていたからだ。


「さようなら。みんなの仇、犬飼源士郎。あの世でパパ達に謝ってね。夜叉……終極(しゅうきょく)

 仇敵に永遠の別れを告げた黒猫は、ナイトメアブレードを突き刺したまま、膨大な闇を全身に纏うと、そのまま超高速回転突撃をして、源士郎を塵と化した。

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