赤き血
そのことに不気味さを感じた時だった。
源士郎は、顔に当てていた手を彼女に向けると、付着した血から槍の穂先のようなものを瞬く間に形成し、一突きした。
黒い猫の高い防刃性能のおかげで、流血することなく肩を掠める程度で済んだが、それでも虚を突かれたことには違いない。黒猫は思わず飛び退き、距離をとる。
「どうした? 鳩が豆鉄砲をくらったような顔をして」
「その槍先、いったいどこから?」
「見てわからんか? 私の血からだ」
得意気な顔でそう言われたことで、黒猫は理解した。
「血? まさか、それが……」
「その通り。これが私の第3の能力、血の力だ」
そう、これが源士郎が隠していたデミ・ミュータント能力。血を操る力だ。
この能力の特徴は、血液の凝固と液状化を自在にコントロールすることと、扱う量に上限がないこと。
故に、どれだけ出血しても、それこそ、先程のように高所から落とされた際に、衝撃を和らげるためのクッションとして使ったとしても、貧血を起こすことなく、瞬時に生成される。
「納得がいった。龍君の体内に血を流し込んだのも、その力ね?」
「ご名答。技もこの技・血槍だ。しかし、困ったな。そのボディースーツの耐久性は、血槍の貫通力より勝るのか。ならば――」
考える素振りをした源士郎は、刀で自らの左人差し指の先を斬り、そこから出てきた血を右手の平に集めると、
「狙えるのはそこしかないか。受けよ。血栓銃、血飛沫」
と言って、鉄砲の形にした左手から血の弾丸を、右手から集めた血で作った散弾を放った。
顔を覆う防具を着けていない黒猫は、刀と黒い猫を身に付けた腕でなんとか弾き、今度こそ確実に仕留めようと、斬りかかった。
が、顔の切り傷から噴出した血を利用して作られた全身鎧によって止められてしまう。
「な!?」
「無駄だ。この紅血の鎧の前では、その程度の攻撃など効きはしない」
彼の言うことは、出鱈目でもハッタリでもなかった。
紅血の鎧は、一般的な軍用強化装甲より遥かに堅牢であり、出血を繰り返すことでより厚く、より硬くなるようになっている。
そのことを一太刀で察した黒猫は、忌々しそうに舌打ちする。
「では、今度はこちらの番だ」
ニヤリと笑った源士郎は、刀に血を纏わせることで、刀身を伸ばした大太刀・鮮血の大太刀を振り下ろした。
応龍虎徹で何とか受け止めた黒猫は、その後も振られ続ける血の斬撃をデビルアイで強化された見切りと技量を使って紙一重で躱したり、いなしたりするが、斬撃の重みが増した大太刀を防ぐ度に、スタミナを削られていく。




