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折れない心と刃

 剣術、柔道、そして摩擦能力を織り交ぜて攻撃してくる源士郎に対し、黒猫はコピー能力を駆使し、ペガサスから受け取った武器と愛刀を切り替えながら応戦する。


「忌々しい限りだ。こうも上手くいかんとはな」


「それもこっちのセリフよ。私は特捜5課にパパ達を殺され、東京で何度も復讐を止められた時から、ずっとそう思ってた」


「逆恨みだな。犯罪者の分際で他人を恨むな」


「違う」


「違うものか。犯罪者が罰せられるのは至極当然のこと。言うなれば、奴らの死は因果応報だ」

 己の正義感に基づいた源士郎の一方的な物言いに、黒猫は、


「それが……やりすぎだって言ってるのよ!」

 と、怒気を込めて、尻に着けたヨルムンガンドスラッシャーで一薙ぎしたが、躱されてしまう。


「罪を犯せば裁かれる。それは真理だけど、あなたのやり方は過剰すぎる。そんなんじゃ、あなたがずっと見下してきた犯罪者と同じよ」


「同じだと? 貴様! クズの分際で、私を愚弄する気か!」


「それがダメだって言ってるの! 秩序の名の下、多くの人を殺し、遺族や関係者から恨まれても、自分のことは棚に上げて『逆恨みだ』と吐き捨てる。そんな最低な人、恨まれて当然でしょ!」

 黒猫の言うことは紛れもない正論だが、源士郎は犯罪者の言葉と断じ、まともに聞こうとしなかった。


「言いたいことはそれだけか? クズがどれだけ恨もうと知ったことか。過剰で何が悪い? 悪党に情けなど無用。やりすぎてこその正義なのだ。貴様らの言うような温くて甘い幼すぎる正義など、何の役にも立たん。それすなわち悪と知れ!」


「そう言うのね。だったら私は、あなたの正義を砕き、パパ達の無念を晴らすっ!」

 そう言って、デビルアイを全開にした黒猫は、応龍虎徹を手にして跳躍し、上空から唐竹割りをしようと振りかぶった。


「バカめ。その刀もへし折ってくれる」

 黒猫の行動を嘲笑った源士郎は、真っ向から真剣白刃取りをすると、再び手の摩擦で折ろうとした。

 が、刃は着火するだけで全く削れず、源士郎の顔に、浅いながらも縦一文字の傷をつける。

 予想だにしていなかった出来事と、火傷と切り傷の痛みに、軽くショックを受けた源士郎は、自らの顔を隠すように片手で顔を覆う。


「苦しそうね。能力を過信するからそうなるのよ」


「バカな……何故だ? 何故、折れん!?」


「この刀は、龍君達が私のために打ってくれた大切な刀。龍人化した龍君の鱗と、みんなの気持ちが込められたこの刀を、そう簡単に折れると思わないで」

 青龍はこうなることを見越して、応龍虎徹を打っていた。菊一文字零式・真打を、何よりそれを扱う黒猫自身を守るために。

 その気持ちを信じたからこそ、黒猫は迷いなく振るうことができたのだ。


「くくく、なるほど。どうりで硬いわけだ。天使ペガサスから聞いたことがある。龍鱗は現存する物質の中で最も硬いと。だとすれば、こうなるのも頷けるな」


「理解してくれたようね。それじゃあ、死んで」

 黒猫は冷たい口調でそう言うと、トドメの一太刀を浴びせようと、応龍虎徹を振り上げた。


 彼女の技量をもってすれば、両断することなど容易い。

 なのに源士郎は、まだ自分は死なないとでも思っているのか、絶対的な自信に満ちた笑みを浮かべていた。

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