黒猫と法の番犬
運命の悪戯によってマッチメイクされた朱雀と鶉の戦いが終盤を迎えた頃、拘置所内では、あいつが紗那がいる独房に辿り着いていた。
「ふっ、また会ったな。下垣紗那」
「犬飼……源士郎さん!?」
朱雀達から話は聞いていたが、よもやここまで敵が来るとは思ってなかった。
ペガサスらの目を掻い潜ってきたのか? それとも、彼らを殺して? 守ってくれている人達のことは信頼しているが、どうしても嫌な想像が頭を過ってしまう。
「そう怯えるな。あの時のような残酷なことをするつもりはない。ただ、この場で死刑を執行するだけだ。待っていろ。今、開けてやる」
そう言って、源士郎は指先から何かの液体を出して、牢の鍵を開けようとした。
清志郎が描く理想のためとはいえ、多くの人を殺してきた自分には、相応しい末路かもしれない。紗那は残酷な運命を受け入れかけた。
しかし、その運命を辿ることはなかった。何故なら――
「させないっ!」
間一髪のところで、救世主である黒猫がどこからともなくから現れ、源士郎を棟の外まで蹴り飛ばしたからだ。
「柚さん!」
「紗那さん、ごめん。不安にさせたよね」
「いいんです。来てくれましたから」
その返事さえ聞ければ十分だった。
紗那の無事を確認した黒猫は、源士郎をぶっ飛ばして開けた壁の穴から飛び下り、彼の後を追った。
紗那がいた階は5階。良くて大ケガ、落ち方によっては死んでもおかしくない高さだが、源士郎は大量の血溜まりの上で、平然と立っていた。
威圧感とは別の能力を使ったに違いない。その正体も気になるが、黒猫は仇敵との対決を優先した。
「やれやれ、振り出しに戻ってしまったか。まぁいい。それよりも……やはり来たか、小娘。よくわかったな」
「あなたのやりそうなことなんてお見通しよ。それに、忘れたの? 私にはコピー能力がある。鴉さんの千里眼で居場所を特定し、道重鶉の影の能力を使って急行した。それだけよ」
「そういうことか」
拍子抜けするぐらいすんなり進めていただけに、ここでの因縁の相手の登場は、源士郎にとっても嬉しかったようだ。一筋縄ではいかないことに残念に思いながらも微笑した。
「さて、さっき死刑執行がどうとか言ってたけど、自分が処される覚悟はできてる? 犬飼源士郎」
「自惚れるな小娘。犯罪者ごときに、私が殺されるものか。そっちこそ、大人しく晒し首となれ」
「その言葉、そっくりそのまま返すわ。秩序のために多くの人の命を奪い、堕ちるところまで堕ちた番犬さん」
今更、言葉を交わすだけ無駄なことは、2人ともわかりきっている。それでも会話を続けるのは、斬殺するための一瞬の隙を狙っているからだ。




