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ピエロの涙

 命乞いが無駄に終わり、死の恐怖に顔を歪ませて息絶えたかつての仲間。その亡骸から朱雀の翼を抜き、地面に下ろした朱雀は、人志と共に彼女を見下ろした。


「……鶉。あんたは知らんやろうけどな、ピエロの目の下の涙マークにはなぁ、『たとえ自分が悲しくても、客を笑かす』っちゅう意味があんねん。そんだけ、ピエロはあんたらクラウンと同じ、いやそれ以上のプロ魂があるんや。決して下等な存在やない」


「そうだね。同時に、ピエロの涙には『おどけて道化を演じる。けれど、どうか馬鹿にせず愛してほしい』という願いもあるんだ。君は昔から『ピエロなんて』ってバカにしてたけど、できれば僕らの気持ちを尊重してほしかった。そうしていれば、こんな結末にも……」

 そう言って人志は、見開かれた鶉の目を閉じ、遺体を抱き上げた。


「鶉。たとえどんなにすごい曲芸を披露できても、他人を見下し、誰も愛そうとしない狂気のクラウンに、客は寄りつかない。君が本当にいたかった居場所は、そんな誰もいないただ虚しいだけのテントだったのかい? だとしたら、君は愚かだ」


「人兄ぃ……」


「雲雀、君は柚さんの加勢に向かってくれ。彼女にも支えが必要だ」


「わかった。人兄ぃは?」


「僕は、鶉の体がこれ以上傷付かないように運んでくる。憎まれ口しか叩かれてこなかったけど、彼女もサーカス団の仲間だからね。この一件が済んだら、ちゃんと埋葬してあげないと」

 そうやって、今までもかつての仲間達を弔ってきたのだろう。だから人志は今も北海道にいるのだ。


「お優しいこっちゃな。ま、そこら辺は好きにしたらえぇわ。ただ、運んでる最中に後ろからやられて、一緒に三途の川を越えるんだけはやめてな。うちだけ残されるなんて耐えられへんから」


「わかってるよ」

 それだけ言うと、人志は鶉を抱えて退却した。

 その背と因縁の相手の死に顔を見て、朱雀は思った。


(心配せんでも、また会えるで鶉。うちがこれからどんだけ幸せに生きとっても、うちもあんたと同じ人殺し。間違いなく地獄に落ちる。せやから、うちらに会いたかったら、地獄(そこ)で待っとき。恨み節ぐらいいくらでも聞いたるし、殺し合いをしたいっちゅーんなら気が済むまで相手もしたる。少なくとも、寂しい思いだけはさせへんで)

 と。


 仲がいいわけではない。なんなら死闘の末、手にかけることにもなった。それでも、家族同然に育ってきただけに、朱雀には一言で表せないような複雑な感情を抱いていた。

 それこそ、ピエロのメイクのように――――

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