唐突な依頼
これだけの人数が家族連れで召集されたのには、重大かつ予想外な理由があった。
「だいたいのことは朋美さんから聞きました。依頼なんすよね?」
「うん。それも、廃業した僕らにわざわざ、ね」
大牙の口から出たワードに、寝耳に水な青山一家は驚く。
「え!? 依頼!?」
「どういうこと? 龍達はもう殺し屋を辞めたのに、なんで今になって……」
信じられないといった様子の未来が尋ねると、岩男は煙草に火をつけ、紫煙を燻らせた。
「それについては、俺よりそこのガラの悪ぃ連中や、あっちで待たせてる嬢ちゃんの方がよっぽど詳しいよ。俺はただ、翔馬とその嬢ちゃんに頼まれてここに匿い、依頼者の1人になったにすぎねぇ。真の依頼人はその嬢ちゃんだよ」
岩男の言葉に、雷ファミリーはその通りだと頷く。どうやら彼らも、立場的には岩男と大差がないようだ。
「軍やマフィアに、私的な理由で匿ってもらうなんて。その方は権力者の親族か何かですか?」
「いや、ちっとも。匿ってもらうよう無理を通したのは俺だ。その子には権力はおろか人脈もない。どこにでもいるただの一般家庭の娘だよ。なんなら、澪ちゃん達も2,3年前までは毎日のように顔を合わせてたぜ」
2,3年前。青山一家にとって、その数字が意味することは1つしかない。
「だいたいの察しはついたようだな。おい、嬢ちゃん。そろそろ出てきて、こいつらに説明してやってくれ」
岩男がそう呼ぶと、真の依頼人はそれに応じて入室し、静かにお辞儀をした。
その顔を見た途端、龍は、
「ん? いっ!?」
と、声を発して顔を強張らせ、慌てた様子で奏と未来の後ろに隠れた。
無理もない。何故ならその人物とは――
「あ、あんた!」
「おっ、やっぱ知り合いだったか。んじゃ改めて、今回の依頼者の井川芹だ」
「宜しくお願いします」
この物語に最初の依頼人であり同級生の芹だったからである。
ただでさえ死んだことになってるのに、何かの拍子でバレたら面倒なことになりかねない。人畜無害のクラスメートで通っているから、おそらく幻滅もされるだろう。
極力、この仕事が終わるまでは、彼女に殺し屋としての姿を見せないようにしよう。正体を悟られたくない龍は心に誓った。
一方の芹も、大いに戸惑っていた。
恩人である青龍が所属していた殺し屋集団・死獣神に助けを求めたはずなのに、何故か後輩や担任の先生、更には死んだと思っていたクラスメートまでいる。
身近なところに殺し屋がいたことや、クラスメートが生きていた事実に、芹はひどく混乱する。
そこら辺の説明は追々していくことになるだろうが、これだけはハッキリと言える。
今回の依頼、色んな意味で一筋縄ではいかなさそうということだけは――――――