朱雀乱舞
もっとも、鶉からすればそんなことはどうでもいい。
重要なのは、仕留めたはずの相手が生きていて、その人物に好き放題言われたこと。見た目以上に精神年齢が幼い彼女にとっては、それが何よりも我慢ならなかった。
「ウッザ……ヒバリンのくせに説教しないでよ。だったら、あたしが全部ぶっ壊してあげるよ! ヒバリンの覚悟も命も、背負ってるもんも全部! 後悔したって遅いよ。ヒバリンは二流のくせに、一流のあたしを怒らせたんだからさぁっ!」
頬を膨らませるとかといった幼稚なポーズはせず、ストレートに怒りをぶつけた鶉は、生き残った部下から弾薬の補充を受けると、殺意を全開にして武器を構えた。
そんな彼女に対して朱雀は、幼少期から抱き続けていた疑問を、冷静にぶつけた。
「なぁ、鶉。ずっとひっかかってたんやけど……クラウンってそんなに偉いんか?」
「はぁ!? 偉いに決まってんじゃん! クラウンは空中ブランコと同格の存在にして、サーカスの花形! それに比べてピエロは、パフォーマンスに自信がないから、笑いをとりにいこうとする邪道な集団、言うなれば落ちこぼれだよ!」
「そうか。せやったら、あんたは間違ってる。ピエロの、うちらのプロ根性をナメきっとる」
「下等なピエロの分際で、クラウンであるあたしのプライドを傷付けて、プロ根性語るなーっ!」
真っ向から否定されたことで、怒髪天を衝いた鶉は、激しい感情に任せて斬りかかった。
それは先程、自分がバカにしていた戦法。いじられていた本人に通用するはずがない。
「アサシネイトステルス、発動」
落ち着いた口調でそう発した朱雀は、アサシネイトステルスで自らの影ごと姿を消すと、当惑する鶉の体に朱雀の尾翼をひっかけて放り投げ、
「まだや! これで済むと思うなっ!」
と言って、朱雀絶影からのチタン針2発、そこからの朱雀の翼で、彼女の肩を貫いた。
「ヒ、ヒバリン……熱いよぉ、痛いよぉ、苦しいよぉ」
「それが死の苦しみっちゅーやつや。あんたが己の楽しみのためだけに、数えきられへん数の人間に与えてきたんが、それや。けど、こんなもんじゃ足りひん。そういうわけやから、続きは地獄でしっかりと味わってこい。ほなな、閻魔さんに会うたらよろしくな」
一切の慈悲をかけず、背を向けたまま別れの言葉を告げた朱雀は、朱雀旋裂棍の引き金を引き、ショットステークで鶉の心臓を撃ち抜いた。
「ヒ、ヒバ……リン………………」
体に風穴が開きながら、口にした名前。それが、狂気のクラウンを自称する少女の最期の言葉だった。




