海老で鯛は釣っても
源士郎の指示を受けたデミ・ミュータント達は、拘置所の外や門周辺にいた渓とアレックスの部隊と交戦。圧倒的な物量と力で兵を蹴散らし、敷地内へと足を踏み入れていく。
このままでは、建物内部に侵入されるのも時間の問題。そんな彼らを止めるべく立ちはだかったのは――真っ青に染まった髪を逆立て、ツインドラコスラッシャーを装備した男だった。
「待て! あの男は!」
「間違いない。死獣神のエースキラー・青龍だ! やはり、ホレた女を守るために現れたか!」
「そのようだな。だが、これはまたとない好機! 博士にとって最大の障害であるあいつを殺せば、我々の評価は格段に跳ね上がる。総員、雑魚は無視しろ! 青龍に総攻撃だ!」
トップクラスの要注意人物の登場に、デミ・ミュータント達は一瞬たじろいだが、功績を求める気持ちの方が勝ったようだ。物量押しなら勝てるだろうと、一斉に襲いかかった。
然しもの青龍も、この数が相手では分が悪いと判断したようで、戦う意思すら示すことなく、建物の西側へと逃走する。
途中、雑魚呼ばわりされた渓率いる兵士達が、背後から攻撃をしかけたが、硬化能力者を最後尾に配置して肉壁とすることで、被害を最小限に抑えたデミ・ミュータント達は、勢いを殺すことなく猛追。とうとう建物の西側の突き当たりで、青龍を追い詰めた。
と、一見すれば、敷島一派が圧倒的有利に思えるが、それだけに、源士郎は違和感を抱かずにはいられなかった。
「……おかしい」
「何がだ?」
「あの男ほどの強者が、何故、戦いもせず、こうもあっさりと追い詰められた? あの程度の雑兵なら、瞬時に葬れるほどの技量があるにもかかわらずだ。まるで、青龍を餌に誘き寄せられているような……」
自らの推理を口にする源士郎に対し、鶉はバカにしたようにケラケラと笑いながら、
「海老で鯛を釣ることはあっても、鯛で海老は釣らないでしょ。考えすぎだって、オッサン」
と、真剣に取り合わなかった。
不真面目な道化の態度に、源士郎は『所詮は犯罪者の戯れ言』と聞き流そうとしたが、そうするには、あまりにも例えが的確すぎた。
「……今、なんと言った?」
「え? だから、『海老で鯛を釣ることはあっても、鯛で海老は釣らない』って……」
「……まさか!」
鶉の答えを聞き返したことで、疑問が確信に変わった源士郎は、デミ・ミュータントらに後退を命じようとした。