約束の接吻
ここまでの硬度に至ったのは偶然ではなく、計算の内。全ては、柚と菊一文字零式・真打を守るためである。
「――龍鱗をってことは、もしかして龍さん……」
「うん。うなじあたりのを抜いたんだけど、生爪を剥がすみたいで、ものっすごく痛かった」
見ると、確かに頸椎の下あたりから出血している。範囲め割と広く、それだけ多くの龍鱗を入れたことが見てとれる。
「バカ。私のために痛い思いまでして。そのせいで戦いに支障が出て、自分の命も芹さんも救えなかったらどうするつもりなの?」
「そんなヘマはしないよ。意地でも生きて、守ってみせる。だから、柚も生きて。そして、菊一文字もみんなも守ってあげて」
こっちの嫌みも介さず発した言葉を受け、龍の人柄を改めて実感した柚は、ハッとし、小悪魔のような笑みを浮かべる。
「『ヒーローなんて柄じゃない』とか言ってたくせに、なに主人公っぽいことを言ってるの? バーカ」
「うっ……」
「まぁでも、龍君の気持ちと痛みはよくわかった。ありがたく使わせてもらうよ」
柚がそう言って、応龍虎徹を折ることなく受け取ったのを見て、未来や大牙らは一安心する。
「だけど、だからといって菊一文字零式・真打を蔑ろにするつもりはないから。そこだけは理解して」
「もちろん。わかってるよ」
「ありがとう。じゃ、お互い守るべきものを守り通して、ちゃんと生きて帰りましょう。家族も待ってることだし、ね」
「うん!」
龍は強く頷くと、いつもの癖で、指切りげんまんをしようとした。
いつものことだし、らしいといえばらしいが、あまりの幼稚さに呆れた柚は、首を横に振り、彼の手を上から押さえながらキスをした。
「約束なら、こっちでしょ?」
「あっ……」
不意打ちのキスに、龍は呆気にとられる。
「これが、最後のキスにならないようにしないとね」
「せやな。よっしゃ、うちも!」
「私もです!」
「未来、あんたもやろうよ」
「は、はい」
直後、家族全員から一斉に約束のキスをされた龍は、公衆の面前ということもあり、タジタジとなる。
その様子を一部の野郎共が羨ましそうに見ていたことは、言うまでもない。