凍てつく殺気
が、この男だけは違った。
「……いいかげんにして。でないと、殺すよ」
凍てつくような口調と共に発せられた青龍の殺気が、それを阻止する。
殺気をあてられた鶉は、ナイフを手離してその場にへたり込み、意識を削がれたことで、全員の動きを縛っていた影の能力も解除された。
人間業とは思えない逆転の手段に、焔司郎が興味を示す中、動けることを確認した青龍は、ゆっくりと彼女に歩み寄る。
「さっきから、僕もみんなも言ってるよね? 『ふざけるな』『付き合ってるヒマなんてない』って。僕らはあの人を追って、井川さんを取り返さなきゃいけないんだ。どうしても邪魔するって言うんなら、斬るよ」
「……ヤッバ。こんな殺気出されたら、あたし……あ」
恐怖と興奮で震えていた鶉は、股間に違和感を感じたらしく、服の上からそこを触って、クンクンと臭いを嗅いだ。
「やっぱ、グショグショになってる~。それに、おしっこも漏らしてるっぽいぃ。くっしゃーい。こんなヤバい殺気あてられたら、それだけでアソコがキュンキュンして、あたし――」
そこまで言いかけたところで、朱雀と黒猫が割って入る。
「気持ちはわかるけど、それ以上はやめてくれない? キャラが被るから」
「せやな。変態ビッチキャラは柚だけで十分やわ。そういうわけやから、ダダ被りのイカレピエロには、早々に退場してもらおうか。こんな調子でウロチョロされたら、目障りやからな」
「そうね」
朱雀にとっては旧知の仲だが、感傷は1ミリもない。2人は旦那と共に得物を振り上げると、躊躇なく斬殺しようとした。
しかし、サイコパスな少女の命運はまだ尽きていなかった。焔司郎が放った炎の壁が、両者の間を遮ったからである。
「な!?」
「私を忘れてもらっては困るな。お嬢さん、今日はここまでにしよう。お漏らしで濡れた服で戦っても不快なだけだろう?」
「だね。あたしも早くお風呂入りたいし。それに、どのみちこれ以上やるつもりはなかったよ。そこにいるこっわーい草食系男子とやり合ったって、勝てっこないもん」
無計画に戦ってるだけかと思いきや、相手の力量を把握する冷静さを兼ね備えている。そのことに、ペガサス達は意外性を感じる。
「驚いたよ。素直に負けを認めるとはね。ただの小悪党ではなさそうだ」
「でしょ~? ってか、それが普通じゃない? だって、死んじゃったら、何も楽しめないでしょ? 食べることも遊ぶことも、壊すことも殺すこともぜーんぶ。てなわけで、今日は終演ってことで。おっかなーい龍君とはもうコリゴリだけど、ヒバリン達とはまた遊んであげるね。じゃ、バハハーイ。キャハハハハ!」
「私も失礼させてもらう。では、ごきげんよう」
そう言うと鶉と焔司郎は、炎によって作動したスプリンクラーの水に紛れるように、撤退した。
無論、青龍達も黙って見逃がすつもりはない。急いで2人と京介の跡を追ったが、殿を務めたデミ・ミュータント部隊に阻まれてしまったこともあり、結局、逃がしてしまった。
未来と美夜達を救出するという最低限の目標こそ達成できたが、恐れていた事態が起きてしまっただけに、素直に喜べない。
玄武と岩男ら留守番組に無念の報告をするべく、青龍達は、黒猫が捕えた妨害部隊の隊長格らしきデミ・ミュータントを連れて、大阪空軍訓練所へと帰還した――――――




