届かぬ声 迫る凶刃
「敷島博士ーっ!」
青龍は必死に叫んだが、マッドサイエンティストの耳には届かない。
代わりに返ってきたのは、鶉から投げ放たれた4本のナイフだった。
「もう、男のくせにギャーギャーギャーギャーうるさいなー。彼女でもない女のことで、マジになりすぎだよー?」
「同感だな。で、どうするのかね? お嬢さん」
「ん? 全員ぶっ殺すに決まってんじゃん。ま~ぁ、その間だけは喚かせてあげよっかなー? とは思ってるけどね。ワオ! 鶉ちゃんやっさしー!」
別に優しくもないし、そもそも、『恋と未来は生かせ』という京介からの命令が、頭から抜け落ちている。
そんなイカれた少女の隣で、焔司郎はやれやれと肩を竦めたものの、プロとして手伝うことにした以上、仕方ないと気持ちを切り替え、再び火の玉を生み出した。
「その火、デミ・ミュータント能力によるものではないですね。犬飼源士郎のとは原理から何から違いすぎます」
「ほう、目敏いな。流石は天使といったところか。如何にも。これは私が天より授かった力・炎のミュータント能力だ」
デミ・ミュータントではなく、ミュータント。黒龍以来となる存在に、黒猫らは驚くが、それだけに疑問も生じる。
「ミュータント? なら、どうして彼の元に? 新しい力を得るためですか?」
「そのつもりはない。付け焼き刃の手段を無駄に増やしたところで、かえって邪魔になるだけだ。それでは美しくない。私はあくまで協力者。とある人物に依頼されて、遺伝子の提供と用心棒をしているたけだ」
つまり、京介の理念に賛同しているわけではない。
だからといって、見逃す理由にはならない。依頼のターゲットというのもあるが、そうでなくても、この男を野放しにしてはならない。この場にいる誰もが、直感的にそう感じていた。
「話は終わったー? んじゃ、喉が張り裂けるぐらい大ーきな断末魔を上げてね。んじゃ、いっくよー!」
鶉は上機嫌にそう言うと、ナイフを手に襲いかかってきた。
飛びかかってくれてたら、影踏みが解除されるため、まだ良かったが、これでは手も足も出ない。
最低でも2,3人は死人が出ることをフローラ達は覚悟した。