逃げるマッドサイエンティスト
そんな中、1人だけ違う反応を見せていた者がいた。フローラの従者として帯同していたルドルフである。
(この男、どこかで……くっ、何故だ? 何故、左目が疼く?)
焔司郎と、彼が生み出した美しい炎を目にしたルドルフは、焼け爛れた左目を押さえる。
そのことに、フローラだけが違和感を覚えるが、彼らのことなど気にすることなく、京介は話を進める。
「油断したね。君達も井川芹も。こちらの意図を読んでいたのなら、さっさと指示を出して、逃がすべきだった。それを怠ったからこうなった」
「そーいうこと。ほんと間抜けだよね! バーカバーカバーカ。キャハハハハ!」
言い様には腹が立つが、間抜けと言われても仕方ないことをしたから、反論の余地がない。青龍達は悔しさから拳を握り締める。
「鶉もよくやったね。見事な囮ぶりだったよ。後でご褒美をあげよう」
「ありがと」
「さて、要も済んだことだし、そろそろ撤収するとしようか」
元から、この施設を捨てて逃げるつもりだったようだ。京介は手下のデミ・ミュータントを呼び出すと、芹の身柄を焔司郎から受け取らせた。
「えー、こいつらは殺さないのぉ?」
「したければすればいい。ただし、河合恋と未来ちゃんは殺さないように。いいね?」
邪魔者は殺しても、サンプルと未来には危害を加えない。徹底した甘い姿勢に、殺人狂の道化は呆れ果てる。
「この期に及んで、まだそんなこと言ってんの? 諦めなって」
「これは命令だよ。どうしても聞けないというのなら、僕についてきてもらうだけだ。君まで加わらなくても、焔司郎さんさえいればなんとかなるからね」
楽しみを奪うような京介の言い方に、鶉はカチンとくる。
「は? 誰もそんなこと言ってないじゃん。ていうか、後からポッと出てきたオッサンに獲物を横取りされるほど、ムカつくことはないよ」
「そっか。なら、わかってるね?」
「はいはい」
上手く乗せられた気がした鶉は、不服ながらも了解する。
「というわけですので、焔司郎さん。すみませんが、後のことはよろしくお願いします」
「あぁ。こちらのお嬢さんのお守りも、だろう? 任せてくれたまえ」
焔司郎の返事を聞いて一安心と思った京介は、部下達を連れて、部屋を後にしようとする。
「ま、待ってください。敷島博士! 井川さんを、井川さんを返してください!」
「それは聞けないね。じゃあ。願わくば、もう邪魔をしないでくれると有難いな」
それだけ言うと、敷島は勝ち誇ったような笑みを浮かべて悠然と去っていった。
自身の野望を叶える3本の矢の内の1本である芹を連れて。




