礼を言ったのだから
愛した女性からの慈悲。それに対する京介の答えは――Noだった。
「未来ちゃんの頼みだから聞いてあげたいところだけど、それはできない。僕は科学者として研究をやめるつもりはないし、贖罪するつもりもない。僕は僕の信念を貫くためにも、研究を中止するわけにはいかないんだ」
「敷島さんっ!」
「それに、僕は礼を言ったはずだよ? 『大切な研究材料をわざわざ届けに来てくれるとは、本当に有難い。感謝してもしきれない』って。なら、無駄な争いはせず、大人しく渡してくれないかな? でないと……こっちも強硬手段をとらざるを得なくなる」
そう言って京介は、キーボードを打つ手を止めて、右手を挙げた。
それが合図だった。天井から落ちてきた小さな影が、着地と同時に青龍達の影を踏みつける。
「もう、京介は言うことが難しすぎ。要は全員ぶっ殺すってことでしょ?」
「そんなことは一言も言ってないよ、鶉。早合点しすぎだ」
京介に訂正された鶉は、口を尖らせつつも了解する。
「あんた! ってか、いつの間に!?」
「ずっと天井から顔だけ出して見てたよ。なのに気付かないとか。プププ、超ウケる!」
朱雀は今すぐにでも殴りたかったが、影の能力によって固定され、動くに動けない。
「こんの、イカレピエローッ!」
「だーかーらー、ピエロじゃなくってクラウンだってば。ヒバリンって、ほんと学習能力ないよねー。ま、いっか。せっかく勢揃いしたわけだし、あたしの曲芸でも見てってよ」
そう言いながら、鶉はもう見慣れてしまって新鮮味の欠片もない武器のジャグリングを始めた。
「ふざけないで。私達はそんなものを見ているヒマなんてないの」
「ぶー、そんなものってヒッドいなぁ。いけずー。どのみち動けないんだから、見るぐらいいいでしょ?」
「相変わらず、頭のネジが10本以上外れてるね。ウズラ。芹さんの能力を使えば、君の能力を解くなんて造作もないはずだ」
人志の言う通りである。青龍と未来と京士郎も、先刻、そうやって鶉の影踏みから逃れた。また同じようにやればいい。




