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翻弄される心

 そうならないよう、ペガサスが零の動きを注視し、恋が彼女の分まで怒りをぶつける。


「あんた、私の親友をバカにするな!」


「あぁ、あんたの友達だったの? それはごめーんね。許・して・ちょ」

 謝る気など微塵もない謝罪。それで済まそうとする鶉の頬の横をチタン針が通過する。


「ん?」


「えぇから、アホ面晒しとらんと、ちゃっちゃと下りてこんかいイカレピエロ。そのスッカラカンのドタマに火薬針をぶちこまれて、脳ミソと一緒にションベン漏らしたくなかったらな」

 ニードル発射装置の発射口を向け、真剣な表情で脅す朱雀に、鶉はそうこないとと言った感じで口笛を吹く。


「おー怖い怖い。ヒバリンってほんっと物騒だなぁ。昔からだけど。わかったわかった。下りるよ。どのみち、言われなくても下りるつもりだったよ。あとちょっとで頭に血が上りすぎて、シャブ中みたいになるとこだったから」

 それだけは本当のようだ。鶉は自らの影を床に落とすと、そこに着地して、帽子を整え、武器のジャグリングをしだした。


「お待たせ! そんじゃま狂気のクラウン・鶉ちゃんがお送りする死と狂気のショー、始まり始まりー」


「自分が主役にでもなったつもり? 小悪党は小悪党らしくやられ役に徹する。そんなこともわからないの? ○ーレイクインもどき」


「言ってくれんじゃん。○ャットウーマンのくせにぃ」

 奇しくも、アメコミの有名キャラをモチーフにしたような2人の対決。かといって、仲間達も指を咥えて、決着を見守るつもりはない。


 2人が言葉を交わしたのを合図に、朱雀らは己の感情をぶつけるように、一斉に襲いかかる。

 見ようによっては集団リンチのようなシチュエーション。その標的にされたのだから、『卑怯』だのなんだのと喚き散らしてもいいようなものだが、鶉はそういったことは一切せず、ただただ不気味な笑みを浮かべていた――――



 10分後。鶉と戦っていた朱雀達は、あの廊下を抜け、なんとか所長室のある5階に辿り着いたが、その顔に邪魔者を片付けた晴れやかさはなく、ただただ疲弊していた。


「つ、疲れたぁー」


「あのアホ、ふざけたマネしおってからに。次、会うたら、ギッタギタにしたるっ!」


「だね。あ、ダメだ。ちょっとでも気を抜いたら顔が……」

 恋は緩んだ表情筋を戻そうと、自分の頬を両手で挟み、マッサージをする。

 他の者も似たようなもので、止めどなく流れる涙を拭ったり、怒りを募らせていたり、この世の終わりかの如く落ち込んだりと、見事に感情に振り回されてしまっている。白虎や美夜達に至っては、笑い疲れたのかぐったりしている始末だ。

 そうなった原因は言うまでもない。あの道化のせいだ。


 道重鶉の3つ目の能力・感情の力。もらい泣きや誘い笑いを強化することで、任意の感情になるよう操作し、対象を無力化させる能力。

 感情で動きを縛るという点で言えば、源士郎の威圧感とほぼ同じだが、感情ならなんでもいいため、やりようによっては、自殺を誘発することもできる恐ろしい力だ。


 間一髪のところで、京介からの呼び出し連絡が入り、撤退してくれたおかげで命拾いしたが、そうでなければ、今頃、無力化され、一方的に惨殺されていたことだろう。


「決着は持ち越し、か。やれやれ、あの小憎ったらしい顔をもう1回見ないといけないとはね」

 それでも、結果的に道をあけてくれたことには変わりない。

 朱雀達は、再び彼女が青龍らを襲う前に合流するべく、精神を落ち着かせてから、所長室に向かった――――

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