賢助の願い
けれど、そうはならなかった。未来を奪う凶弾が2人には当たらなかったからである。何故なら――
「ありゃりゃ。へー、やるじゃん。オジサンかっこいー」
「手塚さんっ!」
賢助が我が身を盾にして、全弾くらったからである。
しばらくの間、大の字のまま立ち続けていた賢助だったが、致命傷を何発かくらったようだ。吐血し、仰向けになって倒れる。
「ごふっ! すまない、未来ちゃん……こんな形でしか、力になれなくて…………」
「私のことはいいんです! それよりもしっかりしてください!」
「…………未来ちゃん、頼む……ご両親の遺志を継ぎ……デミ・ミュータント研究を、正しく、導いて……く…………れ………………」
それだけ言い残して、賢助は静かに目を閉じた。
「手塚さん? 手塚さん………! 手塚さんっ!」
未来は涙を流しながら何度も賢助を揺すったが、目を開けることは2度となかった。
享年43歳。尊敬する叶教授の遺志を継ぎ、人類のために研究に明け暮れていた1人の科学者が、夢半ばで息絶えたのだ。
その死に、青龍も芹も京士郎も悼み、未来に同情する。
ただ1人、撃った本人である鶉を除いては。
「キャハハハハ! 何泣いてんの? まるでお通夜みたいじゃん。ウケる! 超ウケる! キャハハハハ! ま、そう悲しむことはないよ。すぐに同じところに送ってあげるからさ」
空気を読まずに嘲笑した鶉は、弾切れになった銃を捨て、ナイフを手に襲いかかった。
この身勝手極まりない言動に、青龍の怒りと殺意が、ついに頂点に達した。龍人化すると、シェンロンスラッシャーでナイフを、自身の殺気で鶉の動きを止めた。
「……笑うな。未来の涙を、笑うなっ!」
「何、こいつ……まるでバケモンじゃん。怖っ! ヘタなホラーよりずっと怖いかも。さっきの優しそうな草食系はどこへやら」
「ふざけるのも大概にしろ。今、君は僕の逆鱗に触れた。もう許しはしない」
青龍は鶉を払い飛ばし、一旦間合いをとると、シェンロンスラッシャーの刃を逆立たせる。
そんな彼との対決を、あくまで楽しもうとする鶉は、ナイフを弄びながら彼と真っ向から向き合う。