発情期のネコにはいい薬
兎にも角にも、まずは柚をあそこから降ろさなくてはならない。龍と未来は、商店街の人々にも手伝ってもらって、屋根に上がるための梯子を探すことにしたが、寸前で柚の様子に違和感を感じた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
顔が紅潮しているし、息遣いも荒い。これは……
「龍、もしかして!」
「間違いない。熱中症だ! あんなところで天日干しにされてたら、そりゃそうもなるよ!」
この日の最高気温は43度。アーケードもないこの商店街では、直射日光が容赦なく照りつける。
これは一刻を争うと思った龍は、店からハサミを取ってくると、持ち前の身体能力で忍者のように屋根の上へと駆け上り、速やかに彼女を救助した。
「すみません! 彼女に氷と団扇とスポーツドリンクを! 急いでください!」
「お、おう!」
八百屋の大将や薬局の店員は、すぐさま要求された物を取りに行こうとした。が、
「だ、大丈夫です。ご心配おかけして申し訳ありませんでした」
何故か、それらが最も必要なはずの柚自身が拒否した。
「え? でも……」
「そうよ柚さん。こういう時こそ強がっちゃ――!」
「別に強がってなんかないよ。ブラック・ナイトで受けた拷問訓練でこういうのも経験済みだから、あと1,2時間ぐらいは全然平気だよ」
確かに体は火照ってるし、滝のような汗こそかいているが、意識はしっかりとしている。どうやら本当に大丈夫のようだ。
「そっか。それでも体の水分は持ってかれてんだ。スポドリぐらいはちゃんと飲んどけよ」
「わかりました。それより龍君」
「何?」
龍がそう聞くと、柚は不満そうに頬を膨らませた。
「……もう、邪魔しないでよ。あとちょっとだったのに……」
「……へ?」
「亀甲縛りで吊るされた状態での公開羞恥プレイ。みんなに見られてるってだけで、胸やアソコに当たるロープがすっごく気持ち良くって……あと1分あったらイケたのに。寸止めが1番苦しいんだよ?」
そう。龍が目にした兆候は熱中症などではなく、単に快感によるものだったのだ。
これには龍と未来だけでなく、周囲の人々も呆れ果てる。
「ちゃんと責任とってね?」
「はぁ……わかったよ。この埋め合わせは必ずする。だけどね、柚。みんな、君のことを本気で心配してたんだ。なのにそういうのは……流石にナシだよ」
そう言いながら人差し指と親指で輪を作った龍は、柚にデコピンをした。
「ふにゃっ! うー……」
「これに懲りたら、少しは考えて行動するように。いいね?」
「はーい……」
柚が額を押さえながら了解すると、龍は優しく頭を撫でた。
雲雀のツッコミより激しくはないが、柚にとってはこれ以上ない良薬となっただろう。
その後、雲雀の店で食事をしていた家族と合流した3人は、昼食がてら先程までのことを説明。お仕置きのやり方を注意された雲雀は、常軌を逸した柚の変態っぷりに頭を抱えた――――