死の大道芸
しかし、何故か足が動かない。
彼だけではない。青龍も芹も未来も賢助も。全員、足を釘で固定されたかのように動けなくなってしまっている。
「え!? 何これ!?」
「あなた、何をしたの?」
「何って、影を踏んでるだけだよ?」
ただ影を踏んだだけで動きを封じる。普通に考えたらあり得ない話だが、鶉はそれを可能としている。
それこそが、彼女の2つ目の力・影を自在に操る力である。
影と本体は常に一心同体。彼女は自分の影と他の影を重ねて干渉することで、このように身動きをとれなくしたり、影を通ってワープしたりできる。
といったことが、できるらしいのだが――
「バカな! いくらデミ・ミュータントといえども、そんなことできるはずがない! 不可能だ!」
そう。デミ・ミュータントの能力は、真似や帯電体質等といった、あくまで人間が持つ体質や技能を極限まで強化したもの。影を操る力など、明らかに人の域を超えている。
「そんだけ京介の科学力が、天才的にすごいってこと。現実見なよ、オッサン。ま、それと遺伝子的に適合してるあたしも大したもんだけどねー。さーてと、んじゃそろそろ、ここを血の海に――」
「『私達に影踏み能力は効かない』」
トークに飽きた様子の鶉に、未来達はあわや殺されそうになったが、芹の言霊能力が発動したことで、足が動かせるようになり、彼女から離れることができた。
会話ができたからこそ見つけ出せた攻略法とファインプレーに救われた青龍達は、芹に感謝を述べる。
「ちょっとー、邪魔しないでよー。せっかくいいとこだったのにぃ。ブーブー」
「そうはいかないよ。もう、身近な人を失いたくないから」
「むー、面白くなーい。京介の命令じゃなかったら、今すぐにでもぶっ殺してやるのにー」
芹と未来を生かすよう命じられていた鶉は、そのせいでままならないことにぼやいたが、またロクでもないことを閃いたようで、悪い顔をした。
「あ、そっかー。殺さなきゃいいんだ。だったら――」
鶉は悪意に満ちた笑みを浮かべてそう言うと、壁に隠されたボタンを押して、予め壁の内側に格納されていた拳銃を3丁取り出した。
「銃は苦手だし、手加減するのはもーっと苦手だけど、やるだけやってみますか」
「嘘つきもいいとこだね。手加減する気なんて更々ないくせに」
「そう言わないでよ。これでもちょっとは努力するつもりだからさ。てことで、狂気のクラウン・鶉ちゃんの死の大道芸、はじまりはじまりー」
誰も望んでいないパフォーマンスの開始を元気よく知らせた鶉は、銃をジャグリングし始めた。
「こっちは遊んでるヒマないんだけど?」
「いいからいいから。付き合ってよ。どのみち、あんたらにとっては、人生最期に見るパフォーマンスになるんだから、さ!」
そう言うや否や、鶉はジャグリングをしながら銃を乱射した。
彼女の言う通り、一見パフォーマンスのように見えるが、様々な体勢やタイミングで放たれる弾丸は予測がしづらく、何発も被弾する。
「キャハハハ! 血みどろ血みどろー! さーて、残すところあと6発。最後は景気よくいってみよう!」
鶉がそう言って視線を向けた先にいたのは、未来と芹。どうやら瀕死の状態にして、捕縛するつもりのようだ。
「これでゲームオーバー。残念でしたー。キャハハハ!」
終始ペースを握り続け、目的達成を確信した鶉は、狂気に満ちた爆笑をしながら、6発の銃弾を2人に向けて撃った。
青龍と京士郎は負傷し、庇えない距離にいる。未来と芹は、己に待ち受けるバッドエンドを覚悟した。