狂気のクラウン
が、次の瞬間、青龍の背中を襲ったのは、おんぶによる重みではなく、刃物で刺されたような激痛だった。
突然の出来事に、青龍は頭が真っ白になる。
いったい誰が? 周囲に敵の気配は無く、リアクションからして、前に立つ仲間達や賢助ではない。
だいいち、仮に見えない敵が前方にいたとしても、物理的に背中を刺すことはできない。
となると、考えられる可能性はただ1つ。青ざめた顔をした青龍が恐る恐る振り向くと、刺さったままのナイフを手にした刺客が、そこに立っていた。
「……そんな、どうして?」
「……ククク、キャハハハハ! まーだ気付かないの? 噂以上のマヌケだね。バーカ!」
先程までの年相応の少女の顔から一変。淳は狂ったように爆笑した。
「そんな! 叶さんには悪いけど、私はてっきり――!」
「あぁ、そこのオッサンを疑ってたんだ。ま、オッサンは科学者で、あたしは見ての通りのガキだから、そりゃ必然的にオッサンの方を疑っちゃうよねー。けど、まさかこうもうまくひっかかるなんてね。ウケる! キャハハハハ!」
淳は笑いながらナイフを引き抜くと、曲芸のようにクルクルと回してから、刃にこびりついた血を舐めた。
「うん、おいし。けど、いつもの血と違う味。やっぱ、ドラゴンの血が混じってるからかなー」
「龍!」
旦那の身を案じて近寄ろうとする未来を、青龍は背中を押さえながら制止する。
「大丈夫。急所は外れてるから」
「外れてるんじゃなくって、外してんの。すぐに死んじゃったら楽しめないでしょ? そんなこともわかんないの? バーカバーカバーカ」
子供とはいえ、とことんまで人をバカにしたような態度に、全員の怒りが込み上げてくる。
「全部、嘘だったの?」
「うん。そだよー。実際出会ったのは、4年ぐらい前だし」
「君はいったい!?」
京士郎の問いに、待ってましたと言わんばかりに高笑いした淳は、体操選手ばりの跳躍力で彼らの頭上で宙返りをしつつ、早着替えをした。
綺麗な着地をして現れたその姿は、某アメコミの有名ヴィランをモチーフにしたような赤と黒のツートンカラーのピエロのようだった。
「改めまして! あたしの名前は道重鶉。京介の懐刀でもある殺人と破壊がだーい好きな狂気のクラウンだよ。よっろしくー。てなわけで、挨拶も済んだことだし、遊んでちょ」
道化師らしいハデな挨拶をした淳こと、鶉はどこからか8本のナイフを取り出すと、それを指と指の間に挟んで装備し、可愛らしく手を合わせた。
「ふざけるな! 遊びじゃないんだよ!」
「未来、井川さん、手塚さん。僕らの後ろに。もし後ろから敵が来たら、その時は教えて。なんとか対応するから」
「わかった」
守るべき対象に背中を託した青龍と京士郎は、一切油断することなく、得物を構えた。