挽回のチャンスはある
朱雀らと分かれ、先行した青龍、京士郎、芹の3人は、デミ・ミュータントの攻撃を掻い潜りながら、上の階を目指した。
頭数こそ少ないが、芹の言霊能力で大半のデミ・ミュータントは無効化されており、言葉の合間を縫って襲ってくる雑兵も、かつてのエースキラーと妖剣士の敵ではない。
何の苦労もなく、順調に進んだ3人は、予定よりかなり早く未来達と合流することができた。
「いた! 未来!」
愛する妻の姿を確認した龍は、未来の元へと駆け寄る。
「龍! それに、京士郎さんに芹さんも。来てくれたんだ」
「うん」
「ありがとう。それと、ごめんなさい。説得に失敗した挙げ句、迷惑をかけて」
「いいんだ。未来が無事ならそれで。それに、まだ挽回のチャンスはある。だよね?」
青龍から優しい言葉をかけられて、未来は強い心を取り戻した。
今度こそ京介を止める。そのためには何としても証拠を掴まなければならない。未来は己の心を奮い立たせた。
「失礼だけど、君、本当にあの龍君かい?」
「あなたは確か……未来のお父さんの助手の。どうも。お久し振りです」
こんな時だというのに、青龍は律儀にお辞儀する。見た目とのギャップと緊張感の無さに、傍にいた淳は肩を竦める。
「久し振り。しかし、まさかこうも変わるとはね。最後に会ったのは、教授の通夜の時だったか」
「えぇ。あなたも捕まっていたんですか?」
「あぁ、科学者の中では真っ先にね。もっとも、この子は私よりずっと前に捕まっていたみたいだが」
そう言って賢助は、淳に視線を向けた。
詳しい事情は知らないが、こんなところにいて、まともな扱いを受けているはずがない。青龍はできるだけ少女を怖がらせないよう、目線を合わせて自己紹介し、優しい微笑と穏やかな口調で会話した。
そのやり方は適切だったようだ。淳は青龍に対する警戒心を少し緩めた。
「龍、淳ちゃんはずっと敷島さんの監視下に置かれていたんだけど、そのおかげで、敷島さんの悪事の証拠がある場所を突き止めてくれたの」
「そうなんだ。すごいね淳ちゃん。大手柄だよ」
青龍が褒めながら頭を撫でると、淳は照れくさそうに笑った。
「それじゃあ、未来さん達はやっぱりそこへ?」
「うん。危険は承知だけどね」
「だったら、ここからは僕らが護衛するよ。丸腰3人だけじゃ流石に、ね」
断る理由などない。未来が快諾すると、京士郎は先頭に、青龍は最後尾に立ち、前後を守るフォーメーションをとった。
これでは横がガラ空きではないか? と、思うかもしれないが、未来達と共に2人に挟まれる位置にいる芹が、言霊能力でカバーする。現状考えうる最善の配置だ。
万全の態勢で護衛を開始した青龍達は、フォーメーションを保ったまま、移動を開始する。
その矢先、不意に淳が尋ねてきた。
「……あの、龍さん?」
「ん? 何?」
「助けって、龍さん達だけ?」
護衛が少ないことに、不安を感じているのだろう。
青龍は他にも仲間がいることや、彼らが宙達を守ってることを伝えた。
「みんな強いから心配いらないよ。だから、安心して」
「そっか。よかったぁ……」
そう言うなり、淳はその場でへたり込んでしまった。
「どうしたの?」
「ごめんなさい。助かったと思ってホッとしたら、急に力が抜けて」
無理もない。物心ついた頃から監禁されていれば、誰しもそうなる。
「歩けそう?」
「無理、かも」
「そっか……じゃあ」
青龍は、仲間達に一旦停止するように求めると、淳に背を向けて座った。
「はい。どうぞ」
「どうぞって、おんぶ?」
「うん。大丈夫。僕、こう見えて体力には自信があるし、君を背負っても戦えるから。さ、遠慮せず」
「じゃあ、お言葉に甘えて、遠慮なく――」
そう言って淳が肩に手をかけるのを感じ取った青龍は、急にくる重みに耐えようと踏ん張った。