新たな問題
翌朝午前9時半。この日、誰よりも早く起き、さっさと食事を済ませた龍は、シェンロンスラッシャーの素振りに没頭していた。
昨日はあれだけ弱音を吐いていたが、使い慣れた武器だけあって、もう重さと扱いに慣れたようだ。技とまではいかないが、それなりに振れている。
あとは、スイングスピードをもっと上げて、技をやっていくのみ。そう意気込む龍の元に、あの人物が話しかけてきた。
「あの、青山君? 今、大丈夫?」
「井川さん。うん。あ、でも、危ないからなるべく離れててね」
そう言われた芹は、素直に従った。
顔の腫れはすっかり引いたが、龍をこんな風にしてしまった負い目はまだ残っているようだ。
「その、ごめんなさい。私……」
「昨日のことなら、もういいよ。隠してた僕が悪かったんだし。寧ろ、僕の方こそごめん」
「青山君……けど、本当なの? 青山君があの……」
芹から改めて尋ねられた龍は、素振りを中断し、
「うん。信じられないだろうけど、事実だよ。学校ではドジキャラだった柚が、拷問のプロで殺人者だったり、社長としての地位を確立していた玄田君が、サイトオーナーだったようにね」
と、真摯に答えた。
「そう、だよね。それなのに私は、彼女達のことは受け入れておいて、龍君のことは……最低だね、私って。恩を返すどころか、迷惑をかけて……」
「自分を責めるのはもうナシだよ。今は過ぎたことより、これからのことを考えよう」
恩人であり同級生から、優しく諭すように言われたことで、芹は少しだけ気持ちが楽になったが、完全とはいかない。
やはり京介達のことをどうにかしない限り、心が晴れることはないだろう。
と、そこへ、朝食を終えた雲雀と柚と奏が、何やら真剣な顔をして、話に割り込んできた。
「励まし合ってるとこ悪いけど、ちょっとえぇか?」
「雲雀。それに、姉さんと柚も。あれ? 澪達は?」
「食堂で子供達にご飯を食べさせてる」
龍は納得するが、嫁達が来たのは旦那を労うためではない。
「それより龍君。未来さん遅くない?」
「言われてみれば、まだ帰ってきてないね」
家族の中で1番、報連相がしっかりできているはずの未来が、連絡1つしてこないのは、明らかにおかしい。
ということは……
「もしかして、今頃あの人達に――」
不安からロクでもないことを言いかける芹の口を、奏が必死になって塞ぐ。
「ストップストップストーップ!」
「コォラ、ネガティブドアホ! あんた、自分の能力のこと忘れたんか!? 不吉なことを言いさらすなボケッ!」
雲雀に叱られてハッとした芹は猛省した。
自分の言霊1つで、未来の身に災いが振りかかるかもしれないと、改めて気付かされたからだ。
「けど、その通りかもしれない。未来さんは多分、説得に失敗して、彼らに捕らえられているんだと思う。利用価値があるから、殺されはしてないだろうけど」
「だね。問題は、どこに行ったかなんだよねぇ。未来の奴、行き先を伝えてなかったからなぁ」
かといって、携帯電話にかけたところで繋がらない。電波を遮断する建物にいるか、没収されているとみて、まず間違いない。
いずれにしても、ここで自分達だけで考えていても埒があかない。そう考えた奏と雲雀と柚は、1番なんとかしてくれそうなペガサスのところに相談に向かい、妻とペガサスに一任した龍は、未来が無事だと信じて、ひたすら素振りをし続けた――――




