口は災いの元
できれば、そのあたりも解明したいところだが、今、重要なのはそこではない。
黄泉という思わぬ敵が増えたこと。それと、3本の矢と芹についてだ。
「して、芹の嬢ちゃんや。3本の矢の最後の1本にあたる者は?」
帝虎が話を戻すと、芹はさっき以上に暗い顔をする。
「あとの1人は、運命すらも従わせる絶対遵守の言葉の能力者。その人物はもう、この世にいるよ。皆さんの、目の前に……」
「それってどういう――」
そこまで言いかけたところで、その場にいた全員が、芹の言葉の意味と彼女が隠していた秘密を理解した。
「なるほど。そういうことか」
「え? てことは、まさか、あなたが?」
「はい。私がその能力『言霊』の力を持つデミ・ミュータントです」
そう。これこそが、芹が京介らに狙われている最大の理由だった。
ご存知の方もいるだろうが、言霊とは、日本で古くから伝わる言ったことが現実になる現象のこと。例えば『雨が降りそう』と言ったら、程なくして降りだすように。
その能力のデミ・ミュータントとということは、本来なら強い意思を持って何度も言い続けなければ起きないことや、そもそも実現不可能なことすら、たった一言口にするだけで、実現するということ。
それこそ、本心では思ってなくても、『世界なんか消えてしまえ』と言ってしまったら、本当にそうなってしまうように。
「ちょっと待って。じゃあ、ここや香港にデミ・ミュータントの部隊が来たのって……」
「はい。私が『追っ手が来る』と言ってしまったからです。そのせいであの人達は、私が発した虫の知らせを頼りに、居場所を特定したんです。それについては、申し訳ありませんでした」
自分のせいで無駄な犠牲を生んだ自覚があるようだ。責任を感じている芹は、帝虎や十三達に深々と頭を下げた。
「嬢ちゃんが気にすることじゃねぇよ」
「え?」
「うむ。誰しも、不安や恐怖からネガティブなことを言ってしまうもの。それが現実に起こってしまったのは、おぬしをそんな体にした敷島らのせいであって、おぬしが気に病むことではない。全ては不可抗力だったのじゃ」
帝虎と十三から優しい言葉をかけられ、心が救われた芹は、感謝の気持ちからもう1度頭を下げた。
きっと、犠牲になったマフィアや兵士達も彼らと同じ気持ちだろう。誰も芹のせいとは思っていないし、思っていたとしてもとっくに許している。命を賭けて守るとはそういうことである。