3本の矢
そんな、万人から賛同はおろか、共感すら得られるはずもない彼の研究は、現在、第一段階の途中。すなわち、元となる遺伝子を提供する3人の能力者を集めているところだそうだ。
便宜上、3本の矢と呼ばれるそれらの能力の内、見つかっていないのは、不老不死のみ。
京介は、混血による拒絶反応を恐れているらしく、デミ・ミュータントを生み出す等して、可能な限り人間から得ようとしているが、このまま難航すれば、半妖として不老長寿となった恋をリスク覚悟で狙ってくるだろう。
一方で、残りの2つについては、既に発見されている。
1つは、神通力。広い意味で言えば超能力であり、彼らは旧英理村で、そのサンプルとなる人物を発見していたそうだ。
聞き覚えのある地名と超能力という単語に、当事者だった大牙は真っ先に反応する。
「英理村って……まさか、神楽さんっすか!?」
「それはないよ。だって彼女は、今も龍君の前の家の隣に住んでるから。身柄を確保してるんならそっちを言うはずだろ?」
ごもっともな反論に、大牙は納得するが、だとすると、思い当たる人物の見当がつかない。
「他にわかることは?」
「名前はわからないけど、液体カプセルに入れられるところを1度だけ。上半身と下半身が真っ二つになって死んだ女の子で、長い金髪と尖った耳をしていたと思う」
そこまでわかりやすい特徴を言われたら、自ずと答えが出てくる。サンプルとなっているのは、十中八九、黄泉で間違いない。
「よりにもよって、あの極悪ロリババァからかよ」
いいように操られたトラウマがあるからか、黄泉が関わっているという事実に、大牙は頭を抱える。
「けど、それって変じゃない? 生命活動が停止した遺体から遺伝子を取っても、満足のいく結果にはならないんじゃ……」
柚の言う通りだ。死んだ細胞からでは十分なデータを取ることはできない。混血によるリスクを極力回避したいほどチキンで慎重派の京介が、そんな賭けをするとは思えない。
ならば、いったいどうやって? その答えは先程の芹の証言の中にあった。
「……いや、だからこその液体カプセルか」
「どういうこと?」
「彼らは、液体カプセルの中で黄泉の体を接合し、蘇生させてから、遺伝子を取るつもりなんだ」
悪魔の医学と言っても過言ではない方法に、大牙達は驚愕する中、結論を導き出した本人であるペガサスは、誰よりも戦慄する。
現代の人類の科学力では到達し得ない領域にある蘇生法。それを行使する京介らに、強い違和感と、得体の知れない恐怖を感じたからだ。