敷島の目的
京介が道を踏み外してまで叶えたい夢は2つ。
1つは、全人類のデミ・ミュータント化。
ただし、これは創造主を気取りたい等といった我欲を満たすためではない。あくまで、全人類のためである。
というのも、ペガサスが表舞台に現れて以降、異種族の存在が認知されるようになり、混血を含めたその数は、年々増えていっている。
このまま異種族が台頭すれば、あらゆる面で劣っている人類は、劣等感やコンプレックスを抱えることになり、夢や希望を失って家畜同然になるまで衰退する。
そうならないためには、人類全てがデミ・ミュータントとなり、彼らより1つでも優れた能力を持つ存在になるしかない。
その点は、未来の両親である叶教授の『人類の幸福のために役立てたい』という考えと近いが、自称・人類の敵であるペガサスから言わせれば、人はそこまで脆弱じゃない。どんなに劣等感を抱こうと、信念を曲げることになろうと、図太く生きていけるからだ。
それに、反対者を力ずくで排除するやり方は、過激すぎて反発を買うことになる。それでは、夢の実現が遠のく一方だ。
そこは、当の京介もわかっており、これに関しては、最悪、潰えてもいい夢と考えているようだ。
全人類をデミ・ミュータント化させるのは、なにも自分じゃなくてもいい。未来や他の研究者が実現してくれたら、それでいいからだ。
故に、彼が重視しているのは、もう1つの方であり、それこそが、京介の真の目的だ。
その夢とは、最強のデミ・ミュータントを作ること。
この場合、最強のデミ・ミュータントとは、柚のような理論上、人類由来の技能を全て習得できるコピー能力者や、黒龍や源士郎のように何でもいいから複数の能力を持っている者を指しているのではない。
特定の3つの特殊能力を持つ者達の遺伝子を分析し、それらを合成した遺伝子を組み込むことで、神をも超える力を有したデミ・ミュータント。それが京介の提唱する最強のデミ・ミュータントなのだ。
そんなもののために、これだけの悪事を働く京介に、皆、心から軽蔑する。
中でも、自らを神様の下僕だと公言するほど、崇拝しているペガサスは、
「神をも超えるだって? 馬鹿げてる! 己の探求心に任せて禁断の領域に踏み込むなんて。これは、神様に対する冒涜行為だっ! 許すわけにはいかない」
と、烈火の如く怒っていた。
その激昂ぶりに、愛花や彼の人となりをよく知らない蒼子らはたじろぐ。