龍人から凡人に
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われていた1人の元殺し屋と仲間達の最後の戦いを描いた物語。
龍が倒れ、未来が捕まってからしばらくが経った午後7時半頃。旦那の無事を祈る柚達が待つブリーフィングルームに、澪とペガサスが入室した。
「澪! 龍は!?」
「大丈夫です。処置が早かったおかげで、なんとか一命は取り留めました」
澪からの報告に、皆、心から安堵する。
「ただ、危なかったのも事実だよ。傷口を通じて、体内に他人の血が混ざっててね。それによる拒絶反応を起こしてたから」
「他人の血? それってやっぱり……」
「うん。十中八九あの男の血だと思う。おそらく、それを可能にする武器か能力で流し込んだんだと思う」
ペガサスの力で分けられ、排出されたおかげで大事には至らなかったが、違う型の血液を強制的に輸血されるなど、考えただけでもゾッとする。
それだけでも恐ろしいことだが、龍の場合あの件もある。
「それからもう1つ、深刻な問題があるんです」
「何じゃ?」
「龍君の中から、ドラゴンの血と気が消失してしまってるんです」
まるで神の悪戯としか思えない診断結果に、雲雀達は耳を疑う。
「なんやて!?」
「じゃあ、龍君はただの人に?」
「そうなりますね。龍人化や青龍になれないだけでなく、普段の彼にもあったタフさやスタミナも凡人レベルにまで落ちてますから」
そこまで弱体化しているとは思わなかったようだ。質問した京士郎を含め、全員が絶句する。
「どうしてそんなことに?」
「わからない。人智を超えた力が働いて、運命や過去を改変したって線もなくはないけど、龍君の記憶に変化や異常はみられないから、多分、その可能性は低いと思う」
「そっか……」
ペガサスから返ってきた答えに、武文達は肩を落とすが、龍が凡人化した原因ならとっくに目星がついている。
「だ、そうや。そういうわけやから、そろそろ話してくれへんか? 芹」
全員が一喜一憂してる間も、ずっと黙り込んでいた芹は、勘づき始めている雲雀から唐突に名指しされ、ビクッとする。
「あんた、何か隠してるやろ? ただ鬼犬らの企みを知ったって割には、あいつらあんたに執着しすぎや」
「だよね。それに、あんた言ってたよね? 『私のせいだ』って。あれ、どういう意味?」
「………………」
「答えたくないなら、答えなくてもいいよ。吐かせる手段なんて、いくらでもあるから」
ドリルリストを装着し、ドリルを回して脅す柚と、それに負けないぐらいの圧で迫る雲雀と奏から詰められた芹は、とうとう観念した。
「……わかった。そもそも、こうなったのは私のせいだし、青山君があぁなった以上、黙ってるわけにもいかないから……」
芹は申し訳なさそうに言うと、京介の目的と自分が狙われている本当の理由について白状した――――