私のせいだ
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われていた1人の元殺し屋と仲間達の最後の戦いを描いた物語。
食堂に場違いな血飛沫が飛び散る。
かと思われたが、飛んできた光の矢によって刀は紙一重のところで弾かれ、幾重にも巻きつけられた糸が、龍を回収した。
こんなことができるのは、彼らしかいない。
「なんとか間に合ったようね」
「えぇ。雑兵との戦いで、澪さんがレーザーで壁に穴を開けてなければ、今頃、バッサリでしたからね。飛鳥さんもありがとうございます」
「このぐらいお安い御用よ」
そこにいたのは、愛用の弓を手にしたペガサスら外にいたメンバーだった。邪魔なデミ・ミュータントを片付けて、ようやく追いついたのである。
「奏さん、芹、大丈夫か?」
「なんとかね。果林達は気を失ってるけど、一応無事だよ」
家族や恋人が無傷なことに、朱雀と白虎らは胸を撫で下ろす。
あとは、落とし前さえつければ片がつく。
「おい、鬼犬。よくもうちらの亭主をやってくれたな」
「このお礼は、たっぷりとするよ」
口調こそいつもと変わらないが、黒猫はデビルアイを発動した目で睨み、朱雀達は怒りの炎を燃やす。
ここまで好き勝手された挙げ句、龍までやられたのだ。そうもなる。
「これは、少々分が悪いな。今日のところは潔く引き下がるとしよう。だが、最早お前達に勝利はないぞ。青山龍が倒れ、その女がそこにいる内はな」
物量と士気の差から引き際を悟った源士郎は、余裕の態度を保ったまま退却しようとしたが、岩男が旧友に銃口を向けて、行く手を遮る。
「どういう意味だ? 源士郎」
「お前か。いいだろう。旧友のよしみとして忠告してやる。お前達が大事に守っているこの女は、不幸を呼ぶ魔女だ。こいつのもたらす不幸で身を滅ぼしたくなければ、さっさとこちらに引き渡した方が賢明だぞ」
珍しく親切心を見せた源士郎はそう言うと、威圧能力で再び岩男や白虎らの動きを止め、ペガサスと黒猫の遠距離攻撃を躱しながら、窓から逃げていった。
依頼者が無傷で済んだのは不幸中の幸いだが、龍が倒れたりと被害は小さくなく、指揮官である源士郎にもまんまと逃げられてしまった。
とても勝利とは言えず、手放しでは喜べない結果に、銃をしまった岩男は、煙草に火をつけて苦笑する。
「あーぁ、あそこまで言われちゃどうしようもねぇな。どうする? いっそ引き渡しちまうか?」
「悔しいなら悔しいって言った方がいいですよ。悪い癖です」
所属は違えど下僚であるペガサスからチクリと言われた岩男は、不満そうな顔をする。
「それで澪さん。龍君の容態は?」
「詳しいことはまだわかりませんが、かなり危険な状態です。場合によってはペガサスさんの手を借りることになるかもしれません」
鳳凰の診察から一刻を争うと判断したペガサスは、動けるようになった白虎にも協力してもらって、ひとまず龍を医務室に運ぶことにした。
あとは信じて待つしかない。仲間達はそう思い、龍のことを案じていたが、1番心配しているであろう彼の嫁達は、旦那を心配しつつも、別のことが気になっていた。
「なぁ、柚」
「わかってる。あの男の言葉、どうもひっかかるね」
「せやな。芹が不幸を呼ぶってどういうことやろ?」
「さぁ? そのあたりも含めて、あいつが何か知ってんじゃない?」
そう言い、怪しむ奏達の視線の先には、
「私のせいだ。私のせいで青山君は……ごめんなさい、ごめんなさい……」
と、悲しげな表情でブツブツ呟く芹の姿があった。
彼女と源士郎が発した言葉の真意とは、いったい――――――?




