僕、嘘をついてた
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われていた1人の元殺し屋と仲間達の最後の戦いを描いた物語。
その声が天に、何より彼の耳に届いたようだ。すんでのところで駆けつけ、源士郎の手を掴んで止める。
「ん?」
「嫌な予感がしたから来てみたら、やっぱりあなたでしたか」
絶妙なところで登場した人物の行動に、奏は思わず笑みが溢れる。
「ふっ、なーにが『ヒーローなんてガラじゃない』よ。思っきしヒーローみたいじゃない。少なくとも、芹からすれば、ね」
「青山君!」
驚く芹にそう呼ばれた龍は、安心させようと穏やかに微笑む。
「トイレはもういいのか? 青山龍」
「そんなの5分前には済ませてましたよ。ちょっと武器を取ってくるのに、手間取っただけです」
「そうか。ならば、仕方ないな」
「武器?」
龍らしからぬ物騒な単語に首を傾げた芹は、龍を注意深く見た。
彼の手首には、鞭のように長い鱗状の双剣・ツインドラコスラッシャーが装着されている。
「青山君、それは?」
「……ごめん井川さん。僕、君に嘘をついてた」
芹の問いに申し訳なさそうに答えると、龍は彼女の目の前で青龍になり、いきり立つ龍の尾の如く、ツインドラコスラッシャーで床を叩いた。
「源士郎さん。井川さんには、指一本触れさせません!」
「やはり、か。そうこないとな」
龍の変身に、源士郎は上等といった感じで持っていた刀を抜く。
一方で、龍が青龍だったことに激しく動揺する芹は、一歩も動けずにいた。
「――り。芹!」
「は、はい!」
「あいつの能力が解けたみたい。今の内にここを離れよう。こんなとこにいたんじゃ、邪魔になっちゃうよ」
奏に言われて頷いた芹は、気になることがあって、後ろ髪を引かれる思いではあったが、透美達大人や果林と真生と一緒にその場から離れた。
そのあたりの追及を受け、嘘をついたことに対する謝罪をするためにも、彼女を巻き込むわけにはいかない。奏らが芹を連れ出してくれたことを確認した青龍は、ツインドラコスラッシャーで躊躇なく斬りかかった。
朱雀にも通用しなかった威圧の力が通用するとは、源士郎も最初から思ってなかったようだ。能力に頼らず、刀でガードする。
「やはり、一筋縄ではいかんか」
身体能力では青龍の方に分があり、真っ正直からやり合っては勝ち目がない。
それでも、源士郎の顔にネガティブな感情は一切なかった。まだ手の内を隠しているからだ。
「やむを得ん。少々予定外だが、これを使うしかあるまい」
源士郎はそう言うと、すぐ側にあったテーブルの天板を擦った。
すると、天板から火の玉が発せられ、青龍めがけて飛んできた。
思いがけない攻撃に、青龍は面を食らったが、そこは元とはいえ凄腕の殺し屋。瞬時に回避しつつ、火炎放射器で相殺した。
「あ、あっぶなー。ここを火事にする気ですか?」
「火炎放射器を使った男に言われたくないな。言っておくが、タネは明かさんぞ。我々は敵同士なのだからな」
そんなこと言われなくてもわかっているし、言われるまでもない。
戦闘の中で、発火のタネと弱点を探る青龍は、源士郎との激しい攻防を繰り広げた。