刑事の勘?
家族と芹と分かれた黒猫達は、ペガサスがエピウスから運んできてくれた装備を身に付け、玄関を出た。
そこには、既に数百人のデミ・ミュータントが隊列を組んで侵入しており、先頭には指揮官であるあの男もいた。
「ほう。お前らも日本に来ていたとは。余程因縁が深いようだな。小娘」
「そのようね。それはそれとして、とうとう堕ちるところまで堕ちたみたいね。犬飼源士郎」
「堕ちてなどいない。敷島京介に協力しているのも、お前達のような巨悪を討つために力が必要だと判断したからだ。この世の悪を全て裁くための絶対的な力を、な」
正義という信念を忘れて、力のみを求めた末に妄執する。京士郎との一件や聖民党の事件で黒猫に煮え湯を飲まされた屈辱が、彼をここまで歪めたのかもしれない。
だからといって同情には値しない。自業自得だからだ。今はそれよりも大事なことがある。
「おい、鬼犬。あんた、なんでここにあいつがおると思ったん? せやなかったら、飲み友んとこに来んのに、こんな物騒な連中を引き連れて来たりせぇへんやろ」
「確かに貴様の言う通りだが、大した理由などない。強いて言うなら、そうだな……なんとなくだ」
小馬鹿にしたような口調で、らしくないことを言う源士郎に、白虎や京士郎らは『ふざけんな!』と怒鳴る。
「信じられませんね。極度の現実主義者であるあなたが、そんな曖昧なものを頼るなんて」
「私にもそういう時はある。刑事の勘というやつだ」
そんなことを言われても、信用できないものはできない。何か居場所を探知するタネでもあるのか? ペガサスは疑問を感じたが、向こうは追及させる隙など与えてくれない。
「話は終わりだ。井川芹をこちらに引き渡してもらおう。殺し屋などに依頼し、自らの手を汚すことなく人を殺させたあのクズを」
「それはできない相談です。彼女は僕らの依頼人であり、友人ですので。総員、攻撃開始!」
玄武の号令を聞き、黒猫達は一斉に攻撃をしかける。
量では負けるが、半数以上が一騎当千の力を持つ猛者。故に、彼らの力量を嫌というほど知っている源士郎なら、分が悪いと判断し、一時退却するはず。
かと思われたが、
「ふっ、後悔しても知らんぞ」
その表情は不敵な笑みを浮かべるほど、余裕に満ちていた――――