報酬事情
「かたわれの永遠の初任務達成と、全員の無事を祝して〜」
『かんぱーい!』
6人のグラスが触れ合い、良い音を鳴らした。
そんなに間が空いたわけではないのに、全員でこうして話すのはなんだかすごく久々な気がする。
いやそれよりもかかたわれの永遠の方が久々に聞いたな。
「いやあ〜、それにしても、2人の初仕事ってことで、魔術の使い方とか戦い方とか、練習も兼ねて簡単な任務を受けたはずだったのに、まさかこんな命懸けで戦うことになるとはな」
酒をジョッキ一杯一気に飲み干したゴルドが、次の酒を持ってくるよう店員に視線を送りながら言う。
「本当にそうよね。一時はどうなるかと思ったけれど、こうやってまた飲めてよかったわ」
「律ちゃんも、人が変わったように暗くなって心配したけど、もう元に戻ったみたいだしね。僕たちが何を言っても表情筋の一つも動かなかったのに、咲久ちゃん、一体どうやって律ちゃんを元に戻したの?」
サックがそういうと、全員の視線がわたしに集まった。
わたしは、頬張っていた肉を慌てて飲み込んで、両手を顔の前でぶんぶんと振る。
「な、何もしてないよ!ただちょっと誤解っていうか、すれ違っていた部分を矯正したというか、そんな感じ!ね、律」
「うん、咲久がわたしと一緒にいたいって言ってくれた。相思相あー」
「ああああうんまあその、お互いこれからも助け合って一緒にいれたらいいね見たいな感じの話で収まった感じかな!」
余計なことを口走ろうとする律の声を打ち消すようにわたしは声を重ね、ズバッと話をまとめた。
律の不満そうな視線に気がつかないふりをして、わたしは再び肉に手をのばす。
「いや、絶対もっと色々話したでしょ」
「こら、ヨナ。こういうことは、深く聞かないでおくものよ」
むず痒いような、変な空気が流れる。
みんなから向けられる生暖かい視線に耐えられない。
「よーしそれじゃあ盛り上がってきたところで、今回の成果報酬を発表するぞ!」
どの辺が盛り上がっていたのかはわからないけど、話が変わってひとまずホッとする。
ありがとう、ゴルド。
それにしても、あんな化け物と戦って、命懸けで集落を救ったのだから、かなりの報酬が出たのでは?!
ーまあわたしは逃げて隠れて殺されかけて終わったから、戦ったとは到底言えないんだけど。
「えー、咲久と律がザースのところで話している間に、ギルドに行ってエレサに報酬をもらってきたわけだが、その額なんとー」
ゴルドがそこで酒をぐいっと飲み干し、ジョッキをどんっ、置いて声を上げた。
「5万リーンだ!」
‥‥‥?
ドキドキしながら金額発表を待ってみたはいいものの、この世界での買い物は今まで全部アンリーヌに払ってもらっていたから、この世界の通貨や物価について全く知らない。
リーンが日本円で「円」を意味するのだとしたら、命懸けで戦って、6人でたったの5万円‥‥‥?
いやいや流石にそれはないか。
「えっと、五万リーンって、どうなんですか‥‥‥?」
「やっっすいわよ。あんなに大変な思いして、、山分けして1人1万も行かないって、ばかじゃないの」
「仕方ないよヨナ、元々集落が提示していた金額が5万リーンだったんだ。金額をみた上で僕たちはこの依頼を受けたんだよ。報酬が安いからって僕たちが簡単な依頼だと思い込んでいただけで、想定以上に魔獣が強かったから成果も上げてくれ、なんてできないのは、ヨナもわかってるよね。貧困集落だ、五万でも限界だと思うよ」
不満げなヨナを諭すサックを横目に、わたしは隣に座っているゴルドに耳打ちできく。
「えっと、この世界の通貨や物価についてまだよくわかってなくて、今回の飲み代で大体いくらくらいかかるの?」
「そうだな、個室の座席料に、6人で酒も飲んで、たらふく食ったら、全体で2万ちょいだな」
ー‥‥‥なるほど。
ということは、物価は日本と同じくらいで、「リーン」は「円」ということだ。
‥‥‥確かに成果報酬やっす!!
「うふふ、気持ちはわかるわよ。でも、エレサに今回の魔獣について話したわ。毒をもつ魔獣ってだけで珍しいのに、広範囲にあれだけ強力な毒素を撒き散らせる魔獣を相手するとなると、騎士団が動くレベルだそうよ。それを倒したでけでなく、毒を浄化したわたしたちの功績に、正当な報酬を贈りたいと言ってくれたわ」
「じゃあ、追加報酬が貰えたってこと?」
律の質問に、アンリーヌは少し眉を落として口を開いた。
「ギルドのお金は、依頼者から依頼主への報酬として預かっておくお金、今回のような場合に特別報酬として使われるお金の2種類があるの。そして、特別報酬のお金は、貴族へギルドが申請して、特別報酬を送るに値すると貴族側が判断した場合のみ受け取れる。となると、特別報酬をもらおうとすると、今回一体誰がどのように魔獣を倒し、どうやって毒素を浄化したのかを、すべて貴族に報告しなければならいわ」
「ーそれはできないね」
‥‥‥?
全員が頷く中、わたしは何がなんだかよくわからない。
わたしはみんなが戦っていたであろう時にはすでに死にかけていて意識がなかったから、どうやって倒したのか全然知らないけど、普通に戦いの一部始終を報告すればいいんじゃないの?
でも、みんな理解しているようだから、「わからない」と言いづらい。
いくら考えても訳がわからず首を傾げ、アンリーヌに説明を求めて視線を送る。
わたしにすぐに気がついて、困ったように微笑んで、アンリーヌは言った。
「毒素に包まれたあの辺り一体を浄化し、死ぬはずだった集落のみんなと私たちパーティーメンバーを救ったのは、他の誰でもない、咲久ちゃん。あなたなのよ」
お読みいただきありがとうございます。
エレサとかかたわれの永遠とか、名前忘れかけてました。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントをくださっている方々、本当にありがとうございます!!




