被害妄想魔
「ま、待った、咲久!」
焦りのこもった声で呼び止められた。
普段は澄ましていて、冷静に淡々と喋って、声から感情が読み取れないのに、こういう時だけ分かりやすい。
そういうずるいところも大嫌いだ。
わたしは律の声に少しだけ動きを止めたものの、もう振り向かず、部屋から出るためドアを開けた。
ーバタンッ!!
「うわっ?!ちょっ‥‥‥、律?!」
いつの間にかベッドから飛び出した律が、猛スピードでわたしの前まで来て、わたしが開けたドア勢いよく閉めた。
部屋から出ようと試みるわたしの邪魔をするように、律がドアノ前に立ちはだかる。
「ちょっと、律!いい加減にーひあっ?!」
律に抱き抱えられ、ベッドまで強制的に運ばれた。
ボフンッ、とベッドに放り込まれたわたしは、背中からベッドに叩きつけられ、仰向けに横になる。
すぐに起き上がり気を取り直して律に反抗しようとするが、わたしが起きあがる前に、律がわたしの肩を抑え、顔を近づけてきた。
肩を抑えられてるせいで起き上がれないし、そもそも律の顔が近すぎてこれ以上起き上がったら当たる‥‥‥その‥‥‥唇が。
わたしは咄嗟に首を正面から右へ回し、唇が当たらないようにする。
「な、何してるんだよ!」
「まだ話は終わってない」
「いちいち近いんだってば律は!」
「こうでもしないと、咲久出ていくでしょ」
戸惑うな、ドキドキするな、ペースを持っていかれるなわたし!
目を合わせず、ひたすら律の体を押し退けようと抵抗してみるけど、抵抗虚しくびくともしない。
「さっきは返事できなくてごめん。まさか咲久がわたしと一緒にいたいと思ってくれてたなんて知らなくて、戸惑ってた」
「ー‥‥‥はい?」
律の発言があまりにも拍子抜けすぎて、そっぽをむいていた首が無意識に戻り、普通に目を合わせてしまった。
え、大前提わたし達って、この世界で離れ離れにさせられないために、転移者ってことを隠すべく魔力定着をしたり、貴族から身を隠したりして来たんじゃないの?
わたしがわけがわからないという顔をしていると、今度は律の方が目を逸らし、「いや、その、私はさー」と続けた。
「日本にいた時から、なんとなく避けられてるなって感じててさ、ってか実際避けてたでしょ咲久、わたしのこと」
「えっ、あいやそんなことは‥‥‥」
「なんで避けられてるのかもわからないまま、咲久の気持ちも考えずに半ば強引に接点を作りに同じバイト先に行ったしさ、私。こっちの世界に来てからも、なんか時々咲久って私と距離保とうとしてるなって感じることがあったし、私といる以外に生きていく道がないから、不可抗力で一緒にいてあげてる、とかそんな感じだと思ってて」
「それは‥‥‥」
違う。
転移前も、律が嫌で避けてたわけじゃない。
こっちの世界に来てからも、律が嫌で距離を保とうとしてたんじゃない。
けど確かに今までの自分の言動を振り返ってみると、わたしが律に壁を作っているように律が感じとって しまっていても仕方がないかもしれない。
‥‥‥でも絶対に言えない。
自分のメンタルを守るための極端で不器用すぎる「好き避け」だなんて。
「でもさ、こっちの世界は危険なのに咲久は戦えないし、コミュ症の咲久には知らない世界で1人なんて無理だろうし、咲久のことを守っていたら、咲久とずっと一緒にいられると思ったんだよね。咲久のこと、私がいないと生きていけない体にしちゃえるな、と」
「淡々とディスった後怖いこと言うのやめて?!」
「でも、今の咲久には仲間もいるし、私よりも強いし、もう私は必要無くなったかなって思ってたんだけど‥‥‥まさか咲久がそんなに私のこと大事に思ってくれてたなんて」
律ってほんとバカ。
わたしも人のこと言えないけど、律もかなりの被害妄想魔らしい。
‥‥‥まあ、そう思わせるような態度とっちゃったり、言葉が足りてなかったわたしも悪いけど‥‥‥。
「咲久のいう通りだったよ。勝手に私ばっかり咲久のこと守ってる気になってた、ごめん」
「わ、分かればいいんだよ、分かれば!」
本当に律は、真っ直ぐ素直に謝ってくるから、つい許してしまう。
「あと、私ばっかり咲久のこと好きな気になってた。相思相愛だったんだね。勝手に勘違いして離れようとして、ごめん」
「うんうん、分かればー‥‥‥ん?は?!」
しまった、勢いで頷いてしまった。
バッと律の顔をみると、落ち込んでいた表情はいつの間にか普段の澄ました顔に戻っていて、「ニマ〜」と効果音が付きそうな、わたしを慌てさせて楽しんでいる時のいつもの意地の悪い律の表情をしていた。
お読みくださりありがとうございます!!
今回で2人のギクシャク回はどうしても終わらせたかったので、少し長めになりました。
次話、やっと少しほのぼの回が書けそうです。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントをくださっている方々、本当にありがとうございます!




