隣にいれない
わたしが唐突に投げつけた枕は、律によって無駄にクールにキャッチされた。
「さっきから聞いてれば、隣にいる資格がどうだとか、咲久を守るだとか、それって全部律が勝手に言ってることじゃんか!別にわたしは守ってくれとも、守れないなら一緒にいるなとも、一言も言ってない!ってかそもそもなんでそんな思考回路になるんだよ?!律からわたしって、そんな薄情な奴に見えてんの?!」
律がわたしに何かを言い返そうと口を開きかけていたが、わたしは律に話す隙を与えず、続ける。
「っていうか偉そうなんだよ律は!自分が咲久を守るー、咲久には自分しかいないーってさ!わたしだって‥‥‥!わたしだって、律のチート能力には敵わないけど、こっちの世界にきてから律のこと守ろうと頑張ってたし、律にだってわたししかいないし‥‥‥ん?じゃなくて‥‥‥とにかく、律はわたしを助ける、わたしも律を助ける、そうやって今日まできたの!確かに律のおかげでわたしが助かったことの方が圧倒的に多いけど、自分だけが咲久を守ってるみたいに言うな!」
「いや、そんなことは一言もー」
「言ってるようなもんじゃんか!そうじゃなきゃ、咲久を守ることが自分の使命だったのに咲久を守れなかったからもう隣にいる資格がない、とかわけわかんない理由で離れていこうとしないだろ!いつからわたしの護衛騎士になったんだよ!カッコつけんなばか!」
わたしは律の持つ枕に思いっきり拳を叩きつけて怒鳴る。
「そんな理解できない理由でわたしから離れようとするとか、許さないからな!」
頭に血が登って、怒鳴り散らかしてしまった。
息が切れて、顔も熱い。
しばらく沈黙が流れる。
ハッとして、感情的になりすぎたことへの後悔と恥ずかしさが、後からぶわっと押し寄せてきた。
ー‥‥‥やってしまった‥‥‥。
いやいや、だって仕方ないじゃんか。
もう自分は死ぬんだと思って、律のいない世界に行くことになるかもしれない、なんて思って。
ようやく全部終わって、自分も無事で、律も無事で、この先も変わりなく一緒にいれるとほっとしたところで、急に律の勝手で突き放すようなことを言われたんだ。
怒るだろ、普通に。
「な、なんとか言ってよ律。この状況で黙られたら場が持たないんだけど」
「‥‥‥」
何も返事をしない律に、怒りより、徐々に寂しさや虚しさが膨れ上がってきた。
ー‥‥‥わたしばっかりこんなに必死になって、バカみたい。
そうだ、忘れてた。なんでわたしが律と距離を置いていたのか。
律のそばにいると、こうやって感情がぐちゃぐちゃになって、自分が自分じゃないみたいになって、身がもたないからだ。
「ー‥‥‥もういい、律がそうならお望み通り、わたし律の隣からいなくなるから」
わたしはベッドから降りて、律に背を向けた。
もうこれ以上律に振り回されてたまるか。
隣に居れない。
律がわたしにそう思っていて、わたしも律にそう思っている。
それなら、もうそれでいいんじゃないか。
「他人に戻ろう」
わたしは部屋から出ていことドアノブに手をかけたところで、許可もなく溢れてくる涙を堪え律の方へ振り向いて、無理やり作った苦しい笑顔でそう言った。
お読み下さりありがとうございます!
結構重い回になってしまいました。
重いといえば、作者就活真っ只中で心が重いです。
魔法が使えたらなあああ。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントをくださっている方々、本当にありがとうございます。




