狂う調子
「ちょっ、急に引っ張ったら危ないだろ!」
律に覆い被さるようにベッドにうつ伏せになったわたしは、慌てて離れようとするが、律がわたしの腰に両腕を腕を巻き付けてきた。
そのまま律は、巻き付けた腕をシートベルトのようにわたしの腰の後ろでがっしりと繋ぎ、離してくれない。
「り、律‥‥‥?近いし、この体勢きついから‥‥‥おーい、なんでもいいからなんか言えよお起きてるんだろ!」
離すどころか、わたしを抱きしめる腕の力はどんどん強くなっていく。
律は目を瞑ったまま、何も喋らない。
ーやばい、苦し‥‥‥もしかして律、寝ぼけてる?
だとしたら、このままじゃわたし、力加減ができない律に抱き潰される‥‥‥!
「死ぬっ‥‥‥息がっ‥‥‥死ぬって今度こそ!起きろ律ー!」
わたしが必死に叫ぶと、律の身体がハッとしたようにビクッと動き、腕の力が一気に弱まった。
律の目が、ゆっくりと開いた。
「咲久‥‥‥」
「はあっ、はあ‥‥‥やっと起きた。もう、息できな‥‥‥かった、ばか律、脳筋‥‥‥」
「え、なんで咲久が私の体の上で真っ赤になって息切らしてるの?私襲われてる?」
「誰が襲うか!律が引っ張ったんだろ!」
「ああ‥‥‥夢だと思って、ごめん」
ー‥‥‥「夢かと思って」で済ませられたら警察はいらないわ!
でも、なんだ、普通に元気そうじゃんか。
アンリーヌが心配してて、ヨナもが暗いとか面倒臭いとか言ってたからどんな状態かと思えば、別に今まで通りなようなー
「‥‥‥咲久、いつまで乗ってるの。近い、離れて」
「ああ、ごめんごめん‥‥‥え?」
今、わたし律に「離れて」って言われた?
普段の律なら、この距離感のまま「怪我ない?もう痛いとこないんだよね?隠してたら許さないからね」とか言いながら身体ベタベタ触ってきて‥‥‥って、よく考えたら、その「普段」が異常すぎるだろ。
「咲久」
「え、あっ、はい!」
やけに覇気のない悲しげな声で名前を呼ばれて、違和感を覚えて戸惑う。
まだ魔力が回復してないんだろうか。
「もう、身体は平気?」
「あ、うん、おかげさまで〜あはは」
「おかげさまで?」
「うん、だって律がわたしのこと助けてくれたんでしょ」
「‥‥‥違うよ」
「え?」
律の様子が、明らかにおかしい。
疲れているだけなのか、それともめちゃくちゃ怒ってるとか‥‥‥。
てっきり律のことだから、起きてすぐ「なんで1人で勝手に動くなっていつも言ってるのに動いたの?何回言わせるの?」とかって説教を始めると思っていたから、そうなってから全力で謝ろうと思っていたけど、これはもしかしてわざと怒らずわたしから謝罪するのを待ってるのか?
試されてるってことか。
「律、今回は本当にごめー」
「咲久、ごめん」
「へ?」
律の口から聞こえた予想外すぎる発言に、驚きすぎて間抜けな声を出してしまった。
「え、なんで律が謝るの?!今回は絶対わたしが悪いじゃん」
「いや、私が悪い」
「だからなんで?」
「私は咲久を守るためにここにいるのに、咲久が本当に危険な時に、駆けつけられなかった。瀕死の時に、何をすることもできなかった。あの日の失敗をまた繰り返した。わたしはもう、咲久の隣にいる資格がない」
ーあの日っていうのは、地震の日のことだろう。
アンリーヌのいう通り、かなり堪えているみたいだ。
変に考えすぎて無駄に自分を追い込んで謎に病んでいる。
わたしにとってはその状態が通常運転だけど、あまりにも律らしくない。
隣にいる資格がない?何を言ってるんだこの女は。
そんなのは律が決めることじゃない、わたしが決めることだ。
「わたしを守るためにここにいるって‥‥‥わたしは姫で律はその専属護衛騎士か何かなの?いつからそうなったんだよ」
「それは、私なりに自分が転移された意味とここでの使命を分析した結果、そうだって分かった」
「絶対自分の都合よく分析してたでしょそれ」
「‥‥‥いや、そんなことはない」
「仮にそうだとしても、律がいなかったら死んでたんだから、わたしを守るっていう使命は果たせてるからセーフじゃんか」
「私が手助けできたのは最後の最後の無制限魔力供給だけ。それまで回復魔法や魔術具で咲久の命を繋いでくれたのはー」
「でも律がいなきゃ死んでたよ、わたし」
「でもー」
「ああもう!」
ーぼふんっ!!
わたしは律の顔面に枕を投げつけて怒鳴った。
「いい加減しろ、律のあほ!!」
お読みいただきありがとうございます。
サブタイトルをつけてみました。変ですか‥‥‥?前の方がいいですか‥‥‥?変な気がしてきちゃいました。
改めてここまでブックマークやいいね、評価やコメントをくださっている方々、ほんとうにありがとうございます。




