再会
わたしは、律が眠っているという部屋のドアノブに手をかけた。
死にかけた時、律と離れることになるかもしれないとか考えて不安になったり、律が倒れて動かなくなる走馬灯のようなものをみたりしたせいで、なんだかやけに緊張して、手が震える。
「咲久ちゃん、入らないの?」
「は、入るよ!ただその‥‥‥律、怒ってるだろうなって思って‥‥‥」
今回の騒動は、わたしが拗ねて1人で勝手に行動してしまったせいで起きたことだ。
わたしが集落の外れの方なんかに1人で行っていなければ、魔獣が出た時に最初からパーティーのメンバー全員で対応できていたから、こんなことにはならなかったはず。
あああ‥‥‥よく考えたら迷惑かけまくってるじゃんわたし。
謝らないといけない相手があまりにも多すぎる。
「咲久ちゃんがいなかったら、パーティーメンバーも集落の方達も、全滅だったのだけれどね」
「ー‥‥‥え?」
わたしが頭を抱えていると、アンリーヌが困ったように笑ってボソリと呟いた。
「アンリーヌ、今なんてー」
「入りましょう、咲久ちゃん」
わたしの問いかけを遮って、アンリーヌはドアノブにかけていたわたしの手に自分の手を重ね、半ば強制的にドアを開けた。
律がベッドに横になって柔らかな寝息をたてていて、ヨナがベッドの隣で椅子に座って付き添ってくれていた。
「咲久!?」
わたしに気がついたヨナは、ガタッと音をたてて勢いよく椅子から立ち上がると、こちらに駆け寄ってきた。
ヨナの、心から心配してくれていたことがわかる、初めて見る表情に心が揺さぶられる。
「‥‥‥もう、平気なのよね?」
「う、うん。あの‥‥‥ごめんなさい、迷惑かけて」
「本当よ、今後はこんな思いごめんだわ。‥‥‥でも、まあこれに関しては後で詳しく聞かされるとは思うけど、今回の件はあんたが迷惑かけたわけじゃない。むしろみんな、あんたに助けられたのよ」
ー何、なんの話?
目覚めてから、みんなの発言にちょくちょく引っかかる。
わたしの意識がない間に、一体何があったんだ。
「咲久ちゃん、律ちゃんは怒ってないわ。ただ今回の件に関してはかなり堪えている様子なの。ずっと思い詰めた表情でね‥‥‥私達が何か話しても、反応も薄いし表情筋はぴくりとも動かさないしで、本当に大変だったのよ。起きていてもあまりにも苦しそうだから、眠ってくれて安心したほどよ」
「え、律が‥‥‥?」
律はわたしが目の前で死んだことがトラウマになって、その影響でめちゃめちゃ過保護になって‥‥‥それなのにまた、わたしは律の前で死にかけてしまったんだ。
魔獣には爪で腹を貫かれたし、わたし多分相当な状態だったよな。
律が魔獣にやられて血だらけになっているところを想像したら‥‥‥うっ‥‥‥わたしだったらショックでトラウマどころの話じゃない。
「ん‥‥‥」
「ー!律!」
律の声がして、ベッドがわずかに揺れた。
わたしはベッドに駆け寄って、律の顔を覗き込む。
「さすが咲久ちゃんね。ずっと起きなかったのに、咲久ちゃんが部屋に入った途端、目覚めちゃうなんて。ヨナ、私たちは一度退出しましょうか」
「分かった。‥‥‥ったく、咲久!気を使って2人にしてあげるんだから、そいつの情緒元に戻しておいてよね。元のそいつも澄ましててうざいけど、今のままじゃ暗すぎて面倒臭いのよ」
部屋から出てドアを閉める前に、アンリーヌが「そうだ、咲久ちゃん」と言って立ち止まった。
「今日はいつもの酒場でパーティーメンバー全員で初任務完了の打ち上げよ。その時に、咲久ちゃんが引っかかってることもちゃんと話すわね。‥‥‥というか、話さないといけないことね。しばらくしたら呼びに戻るわ。それまで、律ちゃんをよろしくね」
アンリーヌはそう言い残して部屋を出て行った。
部屋には、わたしと律だけになった。
急に静かになって、なんだか落ち着かない。
「‥‥‥あのー、律、えっと、起きてますか‥‥‥」
恐る恐る、律の体を揺らす。
「‥‥‥ん‥‥‥咲久の、匂いがする」
「へ?!わたしの匂い?!」
ゆっくりと、律の目が空いた。
そういえば、わたしってどのくらい眠ってたんだっけ?!
最後にお風呂入ったのってー
「わっ?!」
突然、律が、横になった状態のままわたしの腕を引っ張って抱き寄せてきた。
わたしはバランスを崩し、そのまま仰向けの律の胸にダイブした。
お読みくださりありがとうございます!
ようやく再会させられることができました。
最近、タイトルがシンプルすぎるので、サブタイトルをつけてみたいなーとか考えています。
でも全然思いつかないので、つかないかついてもすぐ消すかすぐ変わるか悩みすぎて血迷うかどれかになる気がします。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントをくださっている方々、本当にありがとうございます!




