目覚め
「んぇ……どこ、ここ……」
どのくらい眠っていたのか分からない。
目が覚めたら、灰色で汚い見知らぬ天井だった。
病院にあるような、簡素で少し硬めのベッドに横たわっている。
「えぇっと、何してたんだっけ……そうだ、死んだんだっけ。死んだ……知らない天井……つまりやっぱ別の世界に再転生……?!」
私はもそもそと起き上がり、ひとまず状況の把握を試みる。
「何言ってんだお前」
「ー!!ザース…!さん……!」
背後から聞こえた身に覚えのある警戒すべき人物の声に驚き、思わず布団を盾のように構える。
「おいお前なんだその態度。誰が助けてやったと思ってんだぁ?」
「あ、え……誰が……?アンリーヌ?」
「俺だよ!俺!今度こそ殺してやろうかこのクソー」
「咲久ちゃん?!」
ドアが開き、入ってくるなり暴言を吐くザースを突き飛ばして私に抱きついてきたのは、アンリーヌだった。
覚えのある柔らかさと温かさに、一気に安心する。
あぁわたし、本当に生きてるんだ。
「やっと目が覚めたのね?!心配したのよ?」
「あ、その、ごめんなさー」
「痛いところは?!気持ち悪いところは?!」
「ない、ないよ、全然ない」
「そう……ならいいの。本当によかったわ」
アンリーヌのこんなに取り乱している姿を見るのは初めてだった。
心配させといて最低だけど、自分のためにこんなに必死になってくれていたんだと思うと少しむず痒いような、嬉しいような気持ちになってしまう。
「アンお姉ちゃん、ここどこ?」
「ザースの研究所よ。咲久ちゃん、魔獣の毒が身体中にまわっていた上、魔力を大量に使った影響で体力もかなり消耗していて、本当に危険な状態だったの。解毒薬は薬師にしか作れない貴重なものだから手に入るのには時間がかかるってことで、手に入りそうなのが闇市くらいしかなかったから、闇市在住歴の長いザースに、何とかならないかって相談しに来たのよ」
てっきり爪で腹を貫かれて大量出血で危険な状況だったんだと思っていたけど、毒までもってたのかあの魔獣。
あれ……ん……?魔力を使った?わたしが?
「そうだ、俺の伝手で闇市の薬師から解毒剤を手に入れてやったんだ。わかってんのかお前、口の利き方に気をつけろよこのー」
「助けてくれてありがとうアン姉……!」
「感謝すべきはまず俺だろうが!!」
わたしがアンリーヌに抱きつき返すと、ザースが怒鳴りながらベッドをぼふんっ、と殴った。
「ったく舐めやがってぶっ殺してやる」とボソッといいつつも、本気でキレている様子ではなく、ザースはどこかほっとしているような表情をしている。
もしかして、ザースって結構良い奴なのか……。
わたしはザースの方に体を向けて、深く頭を下げた。
「あの……ありがとうございました。ザースさんのお陰で助かりました。その……感謝してもし切れません」
頭を下げても反応がないので、恐る恐る顔を上げると、ザースがなんだかよくわからない表情で口をパクパクさせていた。
「……?ザースさん?」
「あっはは、ザースは闇市の住人で、普段人にそんな風に心から感謝なんてされるようなことはないから、照れて反応できないんだよ。ね?ザース」
「サック!いつからいたの?!」
「サックてめぇ余計なこと言うんじゃねぇぞ殺すぞ」
いつの間にか登場していたサックに茶化され、ザースはサックを睨みつける。
「俺はただ、魔力供給をさせてもらうはずだった実験体が減るのが嫌だったから助けただけだ。感謝されるようなことはしてねぇ。元気になったならさっさと帰れ邪魔だ」
私に背中をむけて、「シッシッ」といわんばかりに手の甲をひさひらさせながら、ザースは部屋から出て行った。
「あっはは、みた?咲久ちゃん。ザースの耳真っ赤だったよ」
「サック、あんまりザースを煽っちゃだめよ」
「えー、面白いじゃん。ね?咲久ちゃん」
「……アン姉に同意」
「味方ゼロかー」と口を尖らせるサックをみて、わたしとアンリーヌで顔を見合わせて、思わず笑顔がこぼれる。
「あ、ねぇアン姉。えっと……律ってどこにいる?」
わたしがそう尋ねると、アンリーヌは間をおいて、何か言いたげな表情をしてから言った。
「会いに行きましょうか」
お読み下さりありがとうございます。
ようやく少し平和な回が書けました。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントを下さっている方々、本当にありがとうございます!




