覚醒2
ーあれ、わたし、なんだっけ‥‥‥暑い‥‥‥なにこれ、内臓が、溶ける。
目の前が真っ暗で何も見えない。
いや違う、わたしが目を閉じているだけか。
早く起きて、逃げなきゃ。
わたしを殺すまで、きっと魔獣は追撃してくる。
これ以上やられたら死んじゃうー
ーゴウン、ドスン、ドス、ドン‥‥‥。
魔獣の足音が、なぜか私から遠ざかって行く。
見逃してくれた‥‥‥?なんで?
理由はわからないけど、もしこのまま魔獣が集落の方へ向かったらまずい。
わたしの体を張った囮作戦が水の泡になってしまう。
早く起きて、目を開けて、起き上がって、足を動かして‥‥‥声を、出して‥‥‥。
‥‥‥目が開かない、手足の感覚もない、声が出ない。
それでようやく気がついた。
‥‥‥ああ、わたしもう死ぬのか。
魔獣はわたしを見逃したんじゃない、もう死ぬから、これ以上わたしに構う必要がなかったんだ。
身体が冷たくなっていくのを感じる。
わたしが死んだら、どうなるだろう。
あれ、よく考えたら、わたしパーティー内でこれといった役割もなかったし、きっとわたしがいなくなっても、何も変わらないか。
皆んな少しは悲しんでくれるだろうけど、以前から冒険者をやっていたというし、何人もの死を見てきたであろう人たちだから、きっとすぐに元の調子に戻るんだろうな。
そういえば、日本で蛍光灯に下敷きになったあの時は、こんなふうに自分が死んだ後の世界のことなんて考えもしなかった。
なんでだろう。
そうか、きっと、日本にいた頃は、学校、家庭、交友関係、当時の自分の生活を取り巻く全ての環境や人に、興味も思い入れもなかったから、続いて欲しいと思えるものがなかったから、いつ消えてもいいと思っていたから、その後どうなるかなんて考えなかったんだ‥‥‥ん?ちょっと待って。
そうなると、転生してすぐの時に律に「落ちてくる蛍光灯から逃げる気なかっただろう」って怒鳴られて「逃げる暇もなかったんだ」って言い返してたけど、わたしやっぱり律の言う通り、あの時逃げる気がなかったのかもしれない。
ああ‥‥‥もう一度、律にちゃんと謝りたい。
あの時の律、今まで見たことない表情で泣きながら怒ってたなあ。
こっちの世界に来てからの律は、尋常じゃない過保護で、ほんと、うざいくらい過保護で、でも、ちょっとだけ、本当はまあまあ結構、過保護でいてくれるの悪くないなって思ってなくもなくて。
ごめん、律。
最後の最後まで、子供みたいに拗ねて勝手して、挙句喧嘩したまま死んじゃって。
このまま死んだら、わたしだけ元の日本に戻ったりするんだろうか。
でももしそうだとしたら、そこに律はいないだろう。
いや、わたしはもうあっちの世界では蛍光灯の下敷きになって潰れたらしいから、もしかしたらまた別の世界に転移させられる可能性も‥‥‥。
どちらにせよ、そこに律はいない。
ねえ、律。
わたしにとって律のいない世界なんて、何処にいったところで空っぽだよ。
ー‥‥‥死にたくないなあ。
ー?!ああ、だめだ、ついに走馬灯が見えてきた。
集落が見える。
ん?ちょっと待って、これ走馬灯じゃない。
見覚えのない光景だ。
ヨナが、住人たちに必死に何か呼びかけている。
それに、なんか皆んな苦しそう‥‥‥?ヨナも。
一体何が起こってる?これって夢?現実?それすらもわからない。
集落から画面が切り替わった。
今度は、倒れている魔獣と‥‥‥横たわってるのは、、、ユユちゃん?!
なんでユユちゃんがこんな魔獣の近くに?いやそれより、見た感じユユちゃんは傷を負っているようには見えないのに、なんでー。
再び画面が切り替わった。
‥‥‥?!あれは、わたし‥‥‥。
汗を流しながら、荒い呼吸を繰り返し横たわるわたしの横で、アンリーヌ、律、サックが切羽詰まった様子で何か言い合っている。
ー?!律?!
しばらくして、律が倒れた。
続いて、サックとアンリーヌも、脂汗を流しながら、膝をついてバタンと倒れる。
地獄のような光景だった。
皆んな倒れ、動かなくなり、集落から森まで一帯が静まり返っている。
何?わたし今何を見てる?
律、律ねえ、死なないで。
アンお姉ちゃん、サック、ゴルド、ヨナちゃん、ユユちゃん!!
律‥‥‥お願い‥‥‥お願いだから死なないで‥‥‥!!
ーぴちょん。
その瞬間、わたしの目から流れた涙が白い光を放ち、波紋のように広がっていった。
何が起こっているのかわからない。
わたしの視界も白に包まれ、意識が遠のいていった。
お読みくださりありがとうございます。
久々の咲久のターンは、最初から最後まで咲久の脳内で終わっちゃいました。本当は次のシーンの冒頭まで書く予定でした、、、。咲久のターンだと想定より語り長くなりがちです。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントをくださっている方々、本当にありがとうございます!誤字報告も、とってもすっごく助かってます!




