覚醒
「爪にあるなら血にも……って、嫌な予感はしていたけれど最悪なことになったわね。サック!ひとまず魔術具でユユちゃんに体力回復を!」
「分かってるよアン姉」
ゴルドの腕で、肩を大きく上下させながら必死に呼吸をしているユユ。
でも、それよりも苦しそうなのが咲久だった。
尋常じゃない汗の量と、激しい呼吸。
「アン姉!この毒、咲久の身体をまわるまでどのくらいの時間がかかるの?咲久、あとどれだけ耐えられる?!呼吸が、もう……!」
「血に含まれている毒素を吸い込んだユユちゃんよりも、爪から直接毒を受けた咲久ちゃんの方が状態は深刻だし時間がないわね。でも、正確な時間までは分からない。いつまで耐えられるかは咲久ちゃん次第よ」
そりゃあそうだ、だって魔獣の爪は、咲久の腹を貫いていた。
内臓にも当たっていたに違いない。
「サック、私にできることならなんでもする。できないことでもしてみせる。だから、さっき言ってた伝手ってやつで、なんとかして迅速に解毒剤をーうっ……」
「律ちゃん…!」
突然、視界が歪んで、身体が重くなった。
気がついた時には、私は膝を床に着いていた。
アンリーヌが駆け寄り、私の背中を擦りながら言う。
「まずいわ、当然のことだけれど、私たちも毒素を吸い込んでいるわ。私も、立っているのが辛くなってきたわね。ゴルド、サックあなたたちもでしょう?」
はっとして2人を見ると、確かに2人とも息が荒い。
『 アンリーヌ、聞こえる?ヨナよ。ゴルドに頼まれて、私は村に様子を見に戻ったんだけど、これやばい。何人も倒れてて、苦しそうなんだけど。……てか正直、ヨナも結構……やばい』
ヨナからの通信魔法だった。
ヨナも、息が上がっているのが声だけでわかる。
「ヨナ、報告ありがとう。とりあえず集落の人達も、ヨナ、貴方も、できるだけ壁の厚い建物の中に入っていなさい。想像以上に毒素が蔓延しているわ」
『 ……了解。どうにかなるんだよね?』
「ー……ええ、きっと大丈夫よ」
アンリーヌの「大丈夫」の声に、こんなに覇気がないことは初めてだった。
これ、本当に大丈夫じゃないんじゃ……。
「と、とりあえず、僕が通信魔法で解毒剤をもっている伝手に連絡を……」
「おい、サック。そいつの元に解毒剤を取りに行って、戻ってきて、なんてしてる体力も、時間も、ねぇんじゃねぇのか」
「ーっ!それは……それでも、やるだけやってみるよ。……うっ」
通信魔法を発動しようとしたサックが、倒れた。
毒素にやられて、魔術を発動する体力がもうないのだ。
ヨナからの通信も途絶えた。
サックに続いて、ゴルド、アンリーヌ、そして私も気がついたら倒れていた。
起き上がろうにも、身体が言うことを聞かない。
ずるずるとほふく前進をしながら、横たわっている咲久に、必死に手を伸ばす。
咲久、咲久ごめん。
また助けられなかった。
ごめんね。
願いが叶うなら、お願いだからもう1度、チャンスを下さい。
「……えっ」
9割の諦めと、1割の希望を込めて私がそう言った直後、咲久の身体が白く発光し始めた。
咲久の身体から出た光は徐々に広がり、私たちを囲いこんだ後、集落の方まで続いていく。
「ん……、ユユ、なにしてたんだっけ」
「お、ユユちゃん起きて平気なのか?!……てか、俺も治ってる?!」
「本当だ、僕もだよ」
「……毒が……咲久ちゃんよね、これ」
私は、咲久から目を離せなかった。
目を閉じて宙に浮いて、 発光しながら、白い柔らかい光を放ち続けている。
きっと天使がいたら、こんな感じなんだろう。
『 ねぇアンリーヌ!ヨナだけど!これアンリーヌの魔法?!すごい!嘘みたいに集落の皆も元気になったし、崩壊してた物が全部元通りに戻っていくの!』
咲久の魔法が集落まで到達したようで、時間差で、ヨナから興奮を隠せない様子の通信魔法が届いた。
「違うわ……これは、咲久ちゃんの魔法よ。この魔法は……咲久ちゃんは……おそらくー」
アンリーヌが何かを言いかけたその瞬間、咲久の発光が止まった。
宙に浮いていた咲久が地面に落ちそうになったところを、全員で駆け寄り慌ててキャッチする。
そのままアンリーヌが、素早く咲久の状態を確かめた。
「ねぇアンリーヌ、これってもしかしてー」
「なに?今の咲久について何か知ってるの、アン姉?」
「待って」
咲久のお陰でひとまず状況は全て解決したはずなのに、アンリーヌの表情は深刻なまま変わらない。
「……咲久ちゃんの状態だけ、何も変わってないわ」
お読み下さりありがとうございます!
咲久がようやく覚醒しました。
次は久々に咲久の語りです。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントを下さっている方々、本当にありがとうございます!




