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悲劇

「咲久のだ‥‥‥咲久のローブ」

「おい見ろ、あっちに落ちてるのも咲久のじゃねえか?!あのブーツ‥‥‥」


 魔獣の後ろに散乱している咲久の私物。

 ただ、肝心の咲久が見当たらない。

 きっと、ローブや靴を脱ぎ捨てるほど、命からがら逃げたんだ。

 そうに違いない、絶対にそうだ。


「アン姉、あいつぶっ飛ばしてきてもいい?多分私だけで倒せる。前戦った魔獣より小さいし」

「待ちなさい律ちゃん、危険よ。それに、パーティーメンバーの連携をとる練習のために、比較的弱い魔物を相手にした依頼を受けたっていうのに、それじゃあ何の意味もないでしょう?」

「そうだよ律ちゃん。今後、律ちゃん1人じゃ倒せない魔獣を倒しにいくことになるんだ。その時に連携が取れてなかったら僕たちだって、それこそ咲久ちゃんだって危険になる」

「ほんとだよ、馬鹿なの?しかも、律の拳で変に魔獣を刺激して、暴れ出したらたまったもんじゃない。近くに咲だっているかもしれないのに」

「‥‥‥っ、そうだった、ごめん」


 アンリーヌとサックに諭され、ヨナに呆れた顔をされ、「焦る気持ちはわかるぜ!だが戦いの場では冷静さが鍵だ!」と、ドシドシ背中を叩かれた。

 みんなの言っていることは確かに正論だけど、私は魔獣についている血が咲久のかもしれないと思うと気が気ではない。

 早く咲久の姿を見て安心したい。


ーうおおおおおおおおおん!!

 魔獣が突然遠吠えのような声を上げたと思ったら、私たちの方に急接近してきた。


「魔獣が動き出したわ!さっさと倒して、咲久ちゃんを探しにいくわよ、律ちゃん!みんな、一旦散って!」


 アンリーヌの指示の元、私たちはそれぞれバラバラの方向へ退避する。

 魔獣が止まり、誰から喰らおうかとでも考えているかのように、よだれを垂らしながらキョロキョロと首を動かしている。


『みんないいかしら?魔獣の血は人間の体や周りの環境に害がある場合もあるから、念のため流血を防ぐ形で倒すわよ。サックの魔術具で魔獣の動きを鈍らせて、私とゴルドで魔獣を拘束するわ。その後にヨナの水魔法で魔獣を窒息させて、息をしようと暴れているところに律ちゃんの拳でとどめを刺すわよ!』


 通信魔術でアンリーヌの新たな指示が入ると、サックが早速何やら銃のような形をした魔術具を取り出して、銃口を魔獣に向けて放った。

 銃口から放たれた緑色の煙が、魔獣の身体に染み込むように入っていった。

 こっちの世界の麻酔銃のようなものだろうか。

 明らかに動きが鈍った魔獣を、アンリーヌとゴルドが押さえつける。

 即座にヨナが空中で巨大な水の玉を作り、ヨナが腕を魔獣の方へ振りかざすと、その水の玉が魔獣の方へ空中を移動し、魔獣の頭にすっぽりとハマった。

 水の玉に顔面を覆われた魔獣は、呼吸ができず悶える。


「律ちゃん、今よ!」

「はい!」


 みんなの手慣れた連携プレイに置いてかれるわけにはいかない。

 私は思いっきり拳を振った。


ーがっっ、ごぼぼぼぼ‥‥‥げぼっ‥‥‥ぼ


 私の腹パンを喰らった魔獣は、体内の空気を全て出し切り、しばらくすると動きが止まった。

 アンリーヌの目配せで、ヨナは水の魔術を解く。

 その瞬間、ぱしゃんと水の玉が弾けて消えた。


「よし、周りへの被害なく討伐できたわね。皆、素晴らしかったわ!」

「やったな!律も、よくやった!」

「あはは‥‥‥まあ私は殴っただけだけど‥‥‥ありがとう。それよりー」

「分かってるよ、咲久ちゃんだね?すぐに手分けして探そう」

「ったく、どこにいるのよ、心配ばっかりかけて。じゃあヨナはあっち探すからー」


 グチュッ。

 魔獣の方から、肉が裂けるような音がした。

 完全に咲久捜索モードに切り替わっていた私たちは、一斉に魔獣の方を振り返る。


「何してるのユユちゃん!!」


 そこにいたのは、泣きながら果物ナイフを魔獣に突き刺していたユユだった。

 刺した場所から緑色の液体がどぷどぷと吹き出している。


「離れなさいユユちゃん!今すぐナイフを離しなさい!」

「でも、でも、ユユゆるせなくて‥‥‥おうちこわして、母さんケガさせて、しゅうらくボロボロにして、食べものとられて‥‥‥」

「そうね、そうよね。でももう大丈夫だから。もうお姉さんたちが倒したわ。ユユちゃんは本当によく頑張ったわね。でももう終わったのよ、もう心配いらないわ」


 泣きじゃくりながら魔獣にナイフを突き刺すユユを、アンリーヌがが抱きしめる。

 

「ほら、こんな危ないもの、没収だよ没収」


 ユユのナイフをサックが回収して、ユユの頭を優しくなでた。

 でも、ユユは一向に泣きやむ気配がない。

 しばらくして、しゃくりあげながら、ユユはアンリーヌの胸に顔をうずめて言った。


「ごめんなさい。でも大丈夫じゃないの。サクお姉ちゃんが大丈夫じゃないの」


 その言葉に、空気が一気に変わる。

 

「ここに来るとちゅう、サクお姉ちゃんがいた。ねてて、へんじくれなくて。うごかなかった」

 

 


 

お読みくださりありがとうございます。

作品のキーワードに「ほのぼの」入れてるのに、シリアス展開続いちゃってますごめんなさい。

ちゃんと後々ほのぼの展開きますいつか絶対きっと!

改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントをくださっている方々、本当にありがとうございます!!


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― 新着の感想 ―
咲久ちゃん おなかのなかにいるか魔獣自体が 咲久ちゃんかと思ったら 途中にいたと うごかないだけなら食べられてないってことだよね それなら蘇生術か咲久ちゃん自体の白いろで なんとかなりそう いや、なっ…
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