冗談じゃない
‥‥‥戦ってくれてる?
誰が、誰を相手に?
「じ、冗談でしょユユちゃん、だって咲久は戦えないー」
「ううん、たたかえるって!ユユにはかくしてるだけで、みんなと同じくらいつよいんだってきいたよ。そうなんでしょ?だから、いったんサクおねえちゃんにまじゅうは任せて‥‥‥リツおねえちゃん、大丈夫?」
嘘だ、嘘だ、嘘でしょ。
途中から、ユユの言葉が入ってこなくなっていって、まるで貧血の時のように、視界がグラグラとゆれ
霞んで、嫌な汗が流れてきた。
今私、どんな顔をしているんだろう。
「ユユちゃん、咲久はどこ?」
「あ、えっとね、まじゅうが出たのはあっちの方で、サクおねえちゃん、集落とは逆のほうに走っていったから、そこから先はユユわかんなーあっ、リツおねえちゃん?!」
「律ちゃん、待ちなさい!」
アンリーヌたちの声を無視して、私はユユが指指した方へと走った。
早く‥‥‥一刻も早く咲久を見つけないと。
きっとどこかに隠れてるはず、私の助けを待ってるはずだ。
『律ちゃん、聞こえるかしら?』
「ー?!アン姉?!」
突然脳内に直接アンリーヌの声が響いて、私は走りながら辺りを見渡すが、誰もいない。
『驚かないでちょうだいね、ただ通信魔法を使っているだけよ』
「ああ‥‥‥これが‥‥‥へえ、こんな感じなんだね」
通信魔法はすごいが今はそれどころじゃない。
私は全力疾走しながら適当に返事をする。
だいたいみんなは何してるんだ、なんで咲久を探しに、私の後についてこないんだ。
『律ちゃん、止まりなさい』
「ーは?!いい加減にしてよアン姉、さっきから咲久がやばいってのに落ち着きはらっちゃって、なんなの。止まるわけないでしょ、私は早く咲久をー」
『律ちゃん、焦る気持ちはわかるけど、今は落ち着くべき時よ。よくきいて律ちゃん、あなたとっくに咲久ちゃんがいる位置を通り過ぎてるわ。それで今、どんどん咲久ちゃんから離れて行ってる』
アンリーヌの言葉に、私はようやく足を止めた。
『律ちゃん、あなた自分の全力疾走がどれだけ速いかわかってないのね。時速120はあるわよ。どこまで行くつもりなのかしら?咲久ちゃんがそんなに遠くまで逃げれているのなら、魔獣に捕まる心配もなかったのだけれどね。‥‥‥やっと止まってくれたようね。勝手に飛び出さないって約束は、もう忘れちゃったのかしら』
「ーっ‥‥‥ごめんアン姉」
『お説教は後でたっぷりするとして、今は咲久ちゃんね。サックの魔術具を使って、魔獣の足音を探知して、居場所が分かったわ。咲久ちゃんの足音は拾えてないのだけれど、きっとその近くにはいるはずよ。とにかく魔獣を倒せば咲久ちゃんが魔獣に襲われる心配もないわ、咲久ちゃんを探すより先に、魔獣を倒すわよ。とにかく早くこっちへ戻ってきなさい、本当にどこまで行ってるの』
「‥‥‥分かった」
自分がアホすぎて、ぐうの音も出ない。
『いい?集落から出て20分程西に歩いた場所に魔獣がいるわ。私たちも今向かってる。律ちゃんも早くきなさい』
「分かった!」
私は再び全力疾走で、元来た道を戻った。
まずい、そうこうしているうちに何分経った?
お願い、咲久。
無事でいて。
無事でいろ。
「律ちゃん、来たわね!」
「おー!戻ってきたな律!」
「どこまで行ってるんだよ律ちゃん」
「‥‥‥脳筋ばか」
「‥‥‥あー、その、ごめん」
「その話は後でしっかりしましょうね。今はあれをどうにかするわよ」
伝えられた場所で4人と合流すると、本当にその魔獣はいた。
3mくらいある巨体が、鋭い爪と牙を振り翳して暴れている。
「ちょっと待って、あいつの爪、血ついてない?牙にも。それも、新しい‥‥‥」
ヨナの言葉に、全員が一瞬フリーズした。
「な、何言ってんのヨナ、あいつ自身の血でしょ。あれだけ暴れてたら、怪我もするでしょ」
「いや、それはないよ律ちゃん。魔獣の血は紫色なんだ。あれは、人間の血だよ」
「そん……なわけー」
その瞬間、魔獣が私たちに気づき、向きを変えた。
魔獣の巨体の後ろにわずかに見えたのは、見覚えのあるローブだった。
お読み下さりありがとうございます。
今回は律が語りの回でした。
律は一応全部冷静ぶって話してます。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントを下さっている方々、本当にありがとうございます。




