想定外
ユユにパーティーのメンバーを呼んでくるように伝えると、ユユは明らかに動揺していた。
わたしと魔獣と村の方向とをそれぞれみて、「わかった、で、でも‥‥‥そしたらサクお姉ちゃんが‥‥‥あでも、まじゅうがきちゃう」と、涙目で首も手もオロオロと動かしている。
わたしの心配をしてくれるなんて優しすぎる大好き絶対わたしがこの子を守る!
だって普通、こんなヤバい状況でお金かけて雇った冒険者が隣にいたら、焦って本性出て「ほらなんとかしなさいよ!早く倒して!わたしを守りなさい!」ってなるでしょ。
‥‥‥こんな人間国宝みたいな良い子、ここで死なせるわけにはいかない。
「ユユちゃん、お願い、みんなを呼んできて。わたしなら大丈夫だから」
「でもお姉ちゃん弱いじゃんか!」
うぐっ。
純粋な目でド直球で言われて結構なダメージを負いつつ、なんとか持ち直してわたしは笑顔でユユの頭を撫でる。
この間にも、わたしめがけて魔獣はどんどん近づいてきている。
とにかく早くユユを行かせないと。
「大丈夫。わたし、隠してるだけで本当はめちゃめちゃ強いんだよ」
「‥‥‥ほんとうに?」
「う、うんうん!本当!だって、よく考えてみて!弱くて何もできない子が、あんな強いメンバーと同じパーティーに入れてもらえるわけないでしょ?」
ヤバいきつい、ユユを安心させるために致し方ないとはいえ、この発言は自分で言って自分で傷つきすぎて泣きそう。
「そっか‥‥‥そうだよね!わかった、ユユ、パーティーのみんな呼んでくる!」
「あああありがとうー!!」
ユユが集落の方に走り出したのを確認してひとまずほっとする。
そしてすぐに、わたしは集落とは逆方向に全力疾走だ。
とにかく集落から魔獣を引き離さないと。
戦っても確実にわたしじゃ勝てないのはわかってるから、あとはとにかく逃げて逃げて、みんなが来てくれるまで粘る!
集落から遠ざけられてるから、少しは皆んなの役に立てているのでは‥‥‥。
「ってかこれ普通に囮だよね、なんかデジャブなんですけどおおおお!!」
半泣きであげた叫びも、背後に迫るえげつない足音にかき消される。
「はあっ、はあっ、うっ、死ぬ」
戦えない以前に、自分に体力もないことを完全に忘れていた。
まだ1分も走っていないのに、もうかなり息が苦しい。
速度が落ちていき、距離が縮められていく。
ダメだ、このまま逃げていても追いつかれる。
どこかに隠れて、魔獣に探させて時間を稼ぐとか‥‥‥。
考えてる時間も体力もない、とりあえずどこかに隠れないと!
わたしは、大きな石の影に隠れた。
その瞬間、すごいスピードでわたしを追っていた魔獣が、ザーッ!と音を立てて急停止した。
止まる時に立てた鋭い爪で地面が抉られ、鈍いブレーキ痕ができている。
あの爪で攻撃されたらひとたまりも無い。
わたしのことをまだ見つけてはいないようだけど、クンクンと鼻を鳴らして、巨体がゆっくりと、確実に距離を詰めてくる。
見つかるのも時間の問題ー
「えっ‥‥‥」
身を隠していたはずの石が、気がついたらバラバラに砕けていた。
あまりにも一瞬の出来事で、魔獣が爪で破壊したのだと気がつくまで数秒かかった。
気がついた時には、その爪はわたしの身体に刺さっていた。
***
瓦礫を撤去しながら、私はキョロキョロと咲久を探していた。
どこ行ったんだ、咲久は。
非力で瓦礫も持ち上げられないくせに、こんな尖ったものがごちゃごちゃ落ちてる場所にいたら怪我でもしそうで危ないから離れさせたけど、もうかなりの時間姿が見えない。
拗ねてふてくされてるんだろうけど、魔獣が出るっていう危険な集落で、私の目に見えるとこに咲久がいないのは不安だ。
いや、危険な集落に限らず普段から、常に私の目に見える範囲内に、あわよくば触れられる距離にいてほしい。
「このエリアの作業が終わったら一旦探しに行くか」
血相を変えて走ってきたユユの姿が見えたのは、私がそうつぶやいた数行後だった。
「おねがい、助けて!!まじゅうが出たの!あっちの森!」
すぐさまアンリーヌが駆けつけ、私や他のメンバーも作業を止めてユユの方へと駆けつける。
「ユユちゃん、よく逃げてきたわね、もう大丈夫よ」
「ちがうの、にげてきたわけじゃないの!みんなを呼んできてってたのまれて‥‥‥」
ちょっと待って、頼まれた?誰に?今いないのは1人だけー
「ユユちゃん、咲久はどこにいる?!」
私は、自分がどんな顔をしていたのかわからない。
私がユユの両肩を持ってそう聞くと、ユユはビクッと怯え驚いた様子で、言いずらそうに口を開いた。
「いま、たたかってくれてるの」
お読みくださりありがとうございます。
少し重めの回でした。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントをくださっている方々、本当にありがとうございます。




