限界集落2
集落に着くと、見ているだけで胸が苦しくなるような光景が広がっていた。
倒壊している家がちらほらあり、空のお菓子の箱、リンゴやバナナの皮など、食べ物のゴミが至るところに落ちている。
すれ違う住人は、大人も子供も痩せ細っていて、ふらふらと歩く小さな男の子が目を輝かせてお菓子の箱を拾い上げると、中身がないことを確認して箱を投げ、悔しそうに肩を落としていた。
重苦しい空気が流れているそこは、あの活気のある街から数キロしか離れていないのに、まるで別の世界のようだった。
「うっ……」
「咲久、大丈夫?」
「だ、大丈夫……ちょっとびっくりしただけ」
あまりの光景に、ショックで吐き気がした。
口を抑えて、込み上げてくるものを必死に戻す。
「ここ、ユユのおうちだよ」
「ーっ!これって……」
「まじゅうに、こわされちゃったの」
ユユが指さしたそこは、ガラクタの山だった。
家だったであろうそれは、ただの木のくずになっていた。
「ユユ?帰ったのか?」
崩壊した家の影から現れたのは、ユユとよく似た髪色の男性だった。
痩せてはいるが、体つきはがっしりとしている。
きっとしっかり食べていれば、ゴルドくらい体格が良いだろう。
「父さん!ただいま〜!」
「ユユ、また入口にずっと立っていたのか?もう無駄だと、いつも言っているだろう。頼むから、母さんの傍にいてやってくれないか」
「うふふーん。そうおもうでしょお?でもね、じゃじゃーん!」
ユユはバッと両手を広げて、わたしたちの前に立って言った。
「きてくれたのー!正義の味方!」
ユユの父親らしいその男性は、カッと目を見開き、ガラクタをかき分けてわたし達の方へすごい速さで近ずいてきた。
そして、わたしの手を両手で強く握りしめると、とんでもない眼力で、絶対にこの近距離で出さなくていい声量で、唾を飛ばしながら言った。
「本当にこの集落を救いにきてくれたのか!!」
いや怖い怖い怖い怖い。
なんでわたしなの、もっとゴルドとかアンリーヌとか、リーダーっぽい風格の人がいるのに。
「そ、そうですっ、助ける……ので!助けますので!」
わたしは首をぶんぶん縦に振る。
とりあえず手を離してくれないだろうか。
「ちょっとおっさん。礼儀って知ってる?今すぐ咲久の手離して」
「ちょっ……!律、初対面の人におっさんって……!」
「あ、ああ、いいんだ、俺もすまない。まさか助けがくるなんて思っていなかったから、つい興奮してしまってな」
相変わらず喧嘩越しなのはやめてほしいけど、今回ばかりは律に感謝だ。
わたしは解放された自分の手を苦笑いで撫でる。
「さて、あたらめまして、この村を襲う魔獣の討伐依頼をお受け致しました。冒険者パーティー、かたわれの永遠よ。この集落について、襲ってくる魔獣について、簡単に教えてもらえるかしら?」
アンリーヌが、ユユの頭を撫でながら、落ち着いた口調できく。
アンリーヌたち4人はこの集落をみても動じていなかったし、やはりここ以外にも似たような状況の集落は当たり前に存在しているということなのか。
この世界のこと、知りたいし、知らないといけないのに、知りたくない。
「ああ……。この集落は、金こそなかったが土がよくて、近くに湖もあってな……食物がよく育ち、食うに困らず、普通に平和に皆仲良くうまく暮らしていた。だが、魔獣が現れてから、生活が一変したんだ」
男性は、話しながら言葉を詰まらせながら続ける。
「ある日、奴は突然現れて畑を荒らした。腹が減ってるんだと思って、慌てて食い物を与えた。そしたら帰って行ったんだ。助かったと思った矢先、翌日も奴は現れた。それから何度も現れ、現れる度に食い物を与えた。そうしたら、俺たち人間や、建物、畑は荒らさずに、大人しく帰ってくれるからだ。だが、現れる回数は1日に1回、2回、3回とどんどん増えていき、1度に食う量も増えていった。とうとう食べものが尽き、もうないんだと伝えたら、建物を壊し、畑を荒らし、そして……住人を襲いはじめた」
男性が泣きながら向けた視線の先には、崩壊した家に横たわる女性の姿があった。
「あのね、ユユの母さんなの」
「ーっ!!それ本当?!」
わたしは、ガラクタをかき分けて女性に近づく。
大怪我だけど、息はある。
眠っているだけだった。
ユユが、涙でぐしゃぐしゃの顔で言った。
「たすけられる……?」
「それは……わたしには……ん?」
わたしにはできない、と言おうとして、ふと思い出した。
そういえば私、魔力検査の結果、回復の魔術使えるんだっけ……確か。
「アン姉ちゃん。やってみてもいい?ダメもとで」
わたしが聞くと、アンリーヌは少し驚いた顔をしてから、「あらあら」と微笑んだ。
「いいわ、やってごらんなさい」
お読み下さりありがとうございます!
ちょっと重い回でした。
はやく楽しいことやいちゃいちゃ書きたいいいい。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントを下さっている方々、本当にありがとうございます!




