限界集落
「だ、誰だろう‥‥‥、まさか、人型の魔物なんじゃー」
魔物に襲われた恐怖がフラッシュバックして、わたしは律の腕を掴んで立ち止まる。
もし追いかけてきたら‥‥‥ってか、魔物って魔法が使えたりするのか‥‥‥?
だとしたら瞬間移動で背後に突然現れたりー
「何言ってるの咲久ちゃん、人型の魔物なんて都市伝説にしかないわよ。この付近の集落はひとつしかないから、きっと今回の依頼先の集落の住人だわ」
「あ、なんだ‥‥‥よかった」
でた、都市伝説。
とはいえ、都市伝説でしかなかった「転移者」が、今隣にいるんだから、人型の魔物だってひょっこり現れる可能性だって大いに有り得る。
火のないところに煙はたたないって言うし、きっと実在して誰かが目撃したから噂がたち、それが都市伝説になったんだ。
だからつまり何が言いたいかというと、警戒するに越したことはない。
「咲久、ただの集落の住人だって言ってるのに、いつまで腕掴んでるの?」
「う、うるさい、別にいいでしょ」
「まあ、別にいいけど。手、繋ぐ?」
「あ、それは大丈夫」
そんなこんなで集落へと続く森の入り口に近づいていくと、シルエットしか見えていなかったその人影が、子供であることがわかった。
10歳前後くらいの女の子。
丈の合っていない継ぎはぎだらけのワンピースを着ていて、腰辺りまである長い髪の毛は絡まってボサボサだ。
街で見かける子供たちとの貧富の差は、一目瞭然だった。
「ちょ、こんなところで何してるの、大丈夫?!怪我してない?!」
「咲久!1人で飛び出さないの」
律の腕を離し、女の子のところへ駆け寄ろうとしたわたしの腕を、今度は律が掴む。
「なんでだよ、ただの女の子じゃんか」
「さっきまでの警戒心はどこにいったの?人型の魔物がどうとか言ってたのに、子供ってだけで信用するなんて、これだから咲久はー」
「‥‥‥ひとがたのまもの?ちがうよ、ユユたちのことこうげきしたの、まじゅうだよ」
「ー!」
か弱そうな見た目とは裏腹に、女の子はハキハキとした声で喋った。
アンリーヌが、優しい笑顔で女の子の前まで歩いていくと、膝を曲げて彼女と目線を合わせて言った。
「ユユちゃんっていうのね?こんにちは、私達は、かたわれの永遠っていうパーティーで、正義の味方よ」
待って、思ってた以上に自分がつけたパーティー名が恥ずかしい。
そういえばそうだった、わたしたちのパーティー名ってかたわれの永遠だった‥‥‥って多分わたしを含めてユユを除くここにいる全員が今思った気がする。
いやそれよりも、さすがアンリーヌ、子供への接し方もプロだ。
「ほんとうに?たすけにきてくれたの?」
「そうよ。だからユユちゃん、あなたのお家まで案内してくれるかしら?」
「うん、いいよ。ついてきて。すぐそこなの」
ユユがアンリーヌの手を取って、早く早くと急かすように森の奥へと進んでいく。
わたしたちも、2人の後に続いた。
ずんずん進んで行き、ついに集落のようなものがわずかに見えたところで、ユユが立ち止まった。
「ユユちゃん‥‥‥?どうかしたの?」
「‥‥‥あのね、ユユ、ほんとうはもうだれもきてくれないかなっておもってたの。お父さんもお母さんもみんなも、おかね、ぜんぜんだせなかったから、たすけにきてくれるぼうけんしゃなんていないっていうから」
「‥‥‥?どういうこと?」
わたしと律がきょとんとした顔をしていると、見かねたゴルドが「あー、つまりだなー」と続ける。
「討伐の依頼をするには金がかかる。討伐してくれたら、冒険者への報酬としていくら出しますよってな。だが、こういった集落の討伐依頼の報酬は少ねえんだよ。その集落に住んでる奴らが、こういった事態になった時に魔物討伐を依頼するっていう今回のケースはよくあるわけだが、金がねえから報酬を弾ませようにも弾ませられねえ。報酬が低い依頼に冒険者はなかなか飛び付かん。国や貴族なんかが出してる、もっと割りの良い依頼がゴロゴロあるからな」
「そんな‥‥‥」
おもっていた以上に、この世界は残酷かもしれない。
そうやって、助けが来なくて消えた集落が、きっといくつもあるのだろう。
わたしは、唇を噛んで俯く。
「でも、せいぎのみかた来てくれた!ユユね、ぜったい来てくれるっておもって、みんながあきらめてても、ユユだけはすぐあんないできるようにまいにちあそこで待ってたの!だからねー」
ユユは、そこで言葉を詰まらせて、アンリーヌに抱きついて言った。
「ユユのたいせつなもの、これ以上こわれちゃやだよ。たすけてほしいの」
ユユのボロボロで小さな身体を、アンリーヌが優しく抱きしめて言った。
「お姉さんたちに任せなさい」
お読みくださりありがとうございます!!
やっと冒険者っぽいことが始められそうです。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントをくださっている方々、本当にありがとうございます!!




