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他人に戻りたい  作者: かわさんご
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ふたりきりの夜2

 辺りが完全に闇に包まれた。

 隣にいる律の姿すらまともに見えない。

 顔がよく見えない今なら、言える気がする。


「律、ごめん」


 繋いでいる手に、力が入る。


「何が?」

「巻き込んじゃってごめん。多分、ここに来るはずだったのはわたしだけだったのに」

「そう?」

「だって、大体転生って死んだらするものでしょ。それに、不自然すぎる地震と、わたし目掛けてピンポイントで落ちてきた蛍光灯。自意識過剰じゃないけど、わたしが何者かにターゲットにされてたっぽいなあと‥‥‥」

「今回のは転生ってより転移だから、死ななくてもあり得るよ」


 律は、「いやまあ普通に考えたらどっちもありえないんだけど」と自分の言葉に補足して笑う。

 わたしも、「それはほんとそう」と大きく頷いた。


「それに、多分だけど私日本にいた時より強くなってるっぽいし、チート能力?っていうんだっけ。それ持ってるの私だけなら私が招かれた人で、逆に咲久を巻き込んじゃったとも考えられる」

「なるほど、確かに」


 2人であーだこーだと考えてはみたが、こんな訳のわからない現象の答えなんて出るはずもない。

 転移にしても転生にしても、せめてガイドをつけてくれてもいいのに。

 なんか、「神の声」的なやつが行き先とやるべきことを示してくれたり、小動物みたいなマスコットキャラが相棒みたいな立場になってついてきてくれたり。

 いきなり草原で放置なんてあまりにも鬼畜すぎる。


「まーでも、なんでもいっか!」


 わたしが悶々と考えていると、律が突然そう言って、ぼすんと仰向けに寝転がった。


「咲久も寝転んでみなよ。すごいよ」


 律に言われて、「なんでもよくはないでしょ」と口を尖らせて言いながら、わたしもごろんと仰向けに身体を倒してみる。


「うわあ‥‥‥!!」


 一面の星空だった。

 東京では、星なんて1つか2つ見えただけで「星だ!」とテンションが上がっていたのに。


「すごい、数えきれない。星座も見れちゃいそうだよ、律!あ、この世界に星座があるのかもわかんないんだった」

「あははっ、咲久はしゃぎすぎ」

「は?!別にはしゃいでないし!」


 静かすぎる夜に、律の笑い声がよく響く。

 落ち着いたトーンの、人を不快にさせない笑い声。


「あー、前の世界より、今の方が全然楽しなあ‥‥‥やっぱり、転移したカラクリなんて私はどーでもいい」


 律が星をぼーっと眺めながら呟いた。

 確かに、と思った。

 明日が楽しみだなんて、いつぶりに思っただろう。

 たった1日前までは、眠れない夜も、これから始まる1日を考えると虚無状態になる朝も、心をすり減らされる学校もバイトも、何もかもがぐちゃぐちゃになって辛かったのに。

 今は、すごくスッキリしている。

 なんだかよくわからないけど、とりあえず解放されたんだ。

 わたしは、律の呟きに「それもそーだね」と言って笑った。


「でも、わたしは転移前つまんなかったからいいけど、律はそうもいかないじゃんか」

「なんで?」

「なんでって‥‥‥バド部の秋の大会、今週末でしょ。律が唯一大会で勝ち進める強さ持ってるんだから、早く戻らないとみんな困るし、律だって大会出場したかっただろうしー」

「ああ、やめたよ?部活なら」

「ーへ??」


 驚きすぎて、思わずアホみたいな声を出してしまった。


「あの日、退部届を提出してからバイト行ったんだよね」


 当然のことのようにそんなことを言う律の話に、わたしは頭が追いつかない。

 あんなに強くて、部活のみんなに頼りにされてて、律自身も楽しそうに部活をやっていたのに。

 1番考えられるのはバイトと部活の両立が難しいからって理由だけど、だとしたら逆にバイトを始める意味がわからない。


「え、な、なんで?めっちゃお金に困ってたとか?」

「違う違う、単純に楽しくなかったからだよ。あー、正確に言うと、楽しくなくなったからかな」


 一体わたしが退部した後に、バド部で何があったんだ‥‥‥。

 これって聞いていいやつなんだろうか。

 何か複雑な事情とか、人間関係のいざこざとかがあって嫌な思いをしたとかなら、無理に聞き出そうとしない方がいいのか?


「まーた咲久が考え込んでる」


 律は、「うーむ‥‥‥」と唸っているわたしの顔を覗き込んで、能天気に笑った。


「いや、だって‥‥‥!!」


 わたしは気を使って悩んでるって言うのに、律のばか。


「知りたい?やめた理由」

「そりゃあ、そこまで言われたら気になる」

「本当に咲久はしょうがないなあ」


 律は呆れたようにため息をついて、わざとらしく「やれやれ」と首を横に振った。


「何がだよっ!」


 流石の私もイライラしてくる。


「まあ、バド部内の人間関係の悪化もあるかな。でも、1番の原因はー」


 律はそこで一旦言葉を止めると、わたしを指差して言った。


「咲久だよ」

お読みくださりありがとうございます。


サブタイトル考えるのさぼって、「2」とか書いててごめんなさい。後からちゃんと考えます‥‥‥きっと、絶対、多分、、!

次話は、一体バド部で何があったのかはもちろん書きつつ、ふたりの転生前の学校や部活動でのそれぞれの立場やキャラがわかってくる内容にしようと思っています。


改めて、ここまで読んでくれた方々本当にありがとうございます。

ブックマークや感想や評価、本当に励まされています。

この先も不定期に(多分3、4日ごとが多いと思います)書きたい放題書いて投稿するので、気が向いたら覗いてみてやってください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今回もそうだよねって共感しながら、あっという間でした。 だんだんとこんな展開になっていくってのがそうだよねっていうわくわくとまだ切り出さないっていうやきもきの期待感ですごいことになってる。…
[良い点] 律 転生、転移前から運動神経良かったんだ!サブタイトルは前の続きだから2でもいいと思います!次は転移、転生前の話!楽しみにしてます( *´꒳`* )
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