貧困
「それで、今日はどんな依頼を受けたの?」
アンリーヌたちの後について歩きながら、律がきく。
どんどん草原の奥へ進んで行き、振り返ると元いた街がもうかなり小さく見えた。
「この先の森に魔物が出るみたいでな。その森の近くに小さな集落があるみたいなんだが、こないだその魔物にやられたらしい。だからその魔物を討伐してほしいって依頼だ」
「うんうん、よくある依頼だね」
「へー‥‥‥え?!やられたって、大丈夫なんですか‥‥‥?!」
ゴルドがあまりにもさらっと言うので流しそうになってしまった。
平和に暮らしてたら怪獣見たいのに襲われたってことだよね‥‥‥普通に考えてやばくないか?!
日本でいう、ゴ○ラ襲来みたいなことだよな。
「何人か重軽傷は負ったらしいけど、死者はまだ出てないみたいだよ」
「ふーん、運良いね、珍しいじゃん死者出てないの」
「そうだな!だから多分、そんなに強い魔物じゃないんだろう。それもあって今日はこの依頼を受けたんだよ。ほら、2人は初めての仕事だから、最初は易し目でな!」
ちょっと待って、死者が出てないくて珍しいって、この世界ってそんな感じなの?!
普通に生きてたら、普通に魔物に襲われて、普通に死ぬのが普通なの?!
だめだ、ツッコミどころが多すぎて混乱してる。
「あ、あの、街の外は魔物がいて危ないって言うのは、身をもって体験したのでわかっていたつもりだったんですけど、住んでいる場所や家は安全なんじゃないんですか?」
「ね。私も、今の話だと、魔物による襲撃が至る所で日常的に起きてるって感じに聞こえた。私たちの元いた世界ではあり得ないことすぎて衝撃なんだけど」
律の言葉に、わたしも何度も「うんうんうん」と首を縦に振る。
「そうか、2人がいた世界は魔法や魔術がないんだったな。ならそりゃあ魔物もいねえか」
「安心して、2人とも。わたしたちが住んでいる街は、魔物よけの結界が張られているし、街を高い塀が囲っていて、もし魔物が近づこうものならすぐに塀の上で見張っている警備が動くわ。だから、街の中は安全よ。同じように塀に囲まれた、結界の張られた街がいくつかあって、多くの人がそこに住んでいるんだけど、街よりも圧倒的に数が多いのが集落なの」
「集落は、魔物よけの結界もなければ、塀もないからね。剥き出しの状態で家が並んでるだけ。そりゃ襲われるよ。でも、街に住むとなると家賃がかかるし物価も高い。だから、街に住めない人たちが街の外のあっちこっちに集落を作るんだよ」
貧困問題はどこの世界にもあるんだな‥‥‥。
安全な場所に住むお金がなくて、いつ魔物が襲ってくるかわからない状況で命懸けで生活するなんて、考えただけでも鳥肌が立つ。
昨日、お風呂に文句を言っていた自分をぶん殴りたい。
「絶対に助けましょう!死者が出る前に!」
感情がこもって、思いの外大きな声が出てしまった。
私の言葉に、みんなが顔を見合わせて笑う。
「あらあら咲久ちゃん、気合い十分ね」
「なんで急に咲久が仕切ってんの」
「いいじゃねえか咲久!俺はその意気好きだぜ!」
絶対ここにいる誰よりも役に立てないのに、恥ずかしすぎる。
わたしは俯いて、熱くなっていく顔を隠した。
「あら?森が見えたわよ!あの森を入ってすぐのところに、例の集落があるはずよ。‥‥‥あら?森の入り口に誰か立っているわね」
わたしは顔を上げて、アンリーヌの視線の先に目を移す。
そこには鬱蒼とした森と、その前に確かに人陰が見えた。
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ゴ○ラ好きです。
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