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出発

 誰なのか確認することができないまま、顔も上げず濡れた顔もふけず後ろも振り向けず、フリーズする。

 出しっぱなしの蛇口から流れるじゃあああと言う水の音だけが響いている。

 

「あ、あの、レミさー」

「何してんの咲久、もったいないよ」


 後ろから伸びてきた見覚えのある手が、蛇口をキュッと閉めた。


「律‥‥‥!なんだ律か!」

「なんだとはなんだ。ってうわっ、水滴たれまくってるから」


 ようやく振り向いたわたしの顔を、律がタオルでわしゃわしゃ拭く。


「起きたらいなくて焦った。勝手に出ていかないでくれる?」

「ご、ごめん。珍しく寝てたから、起こしたくなくて。それに、トイレと洗顔だけだからすぐ戻るし」


 すぐ戻るはずだったのに、思いがけず足止めくらったけど。

 走ってきたのか、律の息が少し荒い。

 ー‥‥‥過保護すぎるよ、もう。


「すぐ戻るからって、その格好で部屋の外に出るのは流石にだめ」

「あ、これはその、忘れててー」

「はあ、だからそういうとこだって言ってんの」


 律はローブをわたしの腰に巻いて、怒りの混ざったため息をついた。


「あ、ありがと」

「私もついでに色々済ませるから待ってて」

「うん、わかった」


 律、何も言ってこないってことは、さっきのキラキラ女子たちの話は聞いてなかったのか‥‥‥よかった。

 

「ああそうだ、さっき洗面所から出てくる女2人と廊下ですれ違ったんだけど」

「あっ、え、ええうん」

「一緒に洗面所にいたってことだよね?何もされたりしてない?咲久さっきから挙動不審だし、なんかあった?」

「な、何も!普通に挨拶して、そ、それだけだよ」


 挨拶なんてしてないけど、咄嗟にトイレに隠れてましたなんて本当のこと恥ずかしくて絶対に言えない。

 でもよかった、廊下ですれ違ったってことは、洗面所で話していた話は聞いていなかったってことだ。

 

「ふーん、ならいいけど。よし、私も洗顔終わり。部屋に戻ってアン姉待と」

「そうだね!」


 出発前からこんなに心臓に悪いことが起こるなんて、今日も今日とて先が思いやられる。

 わたしは律に気づかれないよう、そっとため息をついた。



ーコンコンコン。

「私よ〜!」

 

 部屋に戻って着替えを済ませしばらくすると、アンリーヌが迎えにきてくれた。


「おはよう咲久ちゃん律ちゃん。今日は初仕事頑張りましょうね」

「おはよアン姉」

「おはよう、アンお姉ちゃん。あれ、ヨナたちは?」


 わたしはアンリーヌの後ろや周りをキョロキョロと探しながらきく。


「3人には、先にギルドに行って仕事の依頼を受け取ってもらっているわ。6人全員でギルドに行ったら目立っちゃうもの。また昨日みたいに囲まれたら面倒くさいでしょう?あなたたち2人の身バレの可能性も高まっちゃうわ」


 さすがアン姉、抜かりがない。

 ゴルドたち3人とは、街の外へ出る門で待ち合わせをしているとのことで、アンリーヌに連れられて早足で向かう。

 街を歩くだけでも、かなり視線を感じる。

 元々有名だったアンリーヌのパーティーの新入りとして物珍しそうにわたしを見てくる人もいるが、その視線のほとんどは律の黒髪に向けられている。

 レミのこともあるし、街の中ではフードを被って欲しいんだけど‥‥‥。

 視線を向けられて爽やかスマイルで時折手を振っている律に、わたしは冷ややかな視線を送った。

 

「ゴルド〜!サック〜!ヨナ〜!きたわよ〜!」

「お!やっときたか!よし、これで全員揃ったな」

「待ってたよ。さてと、それじゃあ早速行こうか」


 わたしたちは、全員で門をくぐって街の外へ出た。

 一歩外へ出ると、見覚えのある大草原が広がっていた。

 わたしは、ぐっと唾を飲み込む。

 とにかく、足を引っ張らないように‥‥‥今日はとりあえず、それが目標だ。

 


 

 




 

 

 

お読みくださりありがとうございます!!

次回からやっと冒険者っぽいことします。

改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントをくださっている方々、本当にありがとうございます!!

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― 新着の感想 ―
やっぱりお約束の律ちゃんでしたね そしていよいよはじまる? そう、いよいよ冒険がはじまるんです ここまでいろいろあったけどはじまりの草原に戻って またいろいろありそうですね このあとの展開がどうなって…
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