3日目の夜
「さてと、それじゃあ明日は9時頃に2人のお部屋に迎えに行くわね。今晩はゆっくり休むのよ〜!」
「うん、おやすみアン姉」
「おやすみ」
「ヨナもおやすみー!」
温泉から帰った私たちは、明日に向けてすぐに解散した。
灯油がなくて部屋の灯りがつけられないのだと話したら、応急処置としてアンリーヌが蝋燭を恵んでくれた。
なにからなにまで、本当にありがたい。
やっと長い1日が終わったー…と思ったけど、律と同じ部屋なんだった。
今日もめちゃめちゃ喧嘩したから、正直2人きりはかなり気まずいと思ってしまう。
「何してるの咲久、入らないの?」
「あ、ああうん入る!入るよ!」
キィ…バタンッ。
「……」
「……」
2人きりの部屋。
蝋燭の火だけが頼りで、薄暗い。
静かすぎて、唾を飲み込む音すらも響いてしまう気がする。
だめだ、無理だわたしこの状況。
なんだろう、なんだか日に日に気まずくなっていく気がする。
「ね、寝よっか!明日も早いし!」
空気に耐えかねたわたしは、自分のベッドに「あー、疲れた〜!」とわざとらしくダイブする。
「待って」
「え?」
早々にベッドに潜り込もうとしていたわたしに、律が一言そう言うと、当たり前のようにわたしのベッドに近づいてくる。
「な、なになに?!」
ベッドに登ってきた律から逃げるように後ずさるが、狭いベットに逃げ道はない。
すぐに壁にぶつかって、追い込まれてしまった。
「な、なんだよ……」
「話がある」
「ええ……」
なんでこいつはいちいちわたしの逃げ場をなくしてから話を始めるんだよ。
普通にお互いのベッドの脇に座って話せばいいだろ!
「今日の喧嘩のことならもう仲直りしたじゃんか」
「いや、今までの咲久の様子をみて心配なことがあるから、明日までに私と約束しておいてほしいことがある」
「約束?」
律はそういうと、正面からわたしの目をまっすぐ見て、そのまま顔を近づけてきた。
「あ、あああの律さんちょっ…近っ」
ーコツン。
律が、わたしの肩に頭を乗せて、言った。
「お願いだから、無茶はしないで」
びっっ……くりした……キスされるのかと思った。
いやいや違う、律はもともと誰に対しても距離が近い人なんだった。
いちいちこういうのに反応してたらキリがない。
でもこっちの世界に来てから、律が距離近いのってわたしに対してだけなような……。
目の前で死んじゃったから過保護化してるとはいえ、異常なような気もー
「聞いてんの?咲久」
「え?あ、ああうんもちろん!無茶はしない、だよね。わかった、なるべく気をつける」
「分かってないな……」
「分かったって。それよりいつまでそうしてるんだよ!肩重いし、顔近いってば」
律は、肩から頭を離し、納得がいかないとでも言うかのような目でわたしを見る。
わたしは思わず目を逸らした。
「ほら、もう寝るよ!律もはやく自分のベッドに戻……ーうわっ!」
身体が傾き、視界がグランと回ったかと思ったら、いつの間にかわたしを見下ろす律の顔が目の前にあった。
自分が押し倒されたのだということを、その瞬間にようやく理解する。
「り、律……?あんまりそーゆう誤解を招くようなことはしない方が……あひっ」
律がわたしの耳を撫でながら、徐々に顔を近ずけてくる。
全神経が耳にいってしまって、変に反応してしまう。
「り、律っ!律……何してんだ、やめ……」
「なるべく、じゃない。絶対に、無茶はしない。約束する?するならやめる。約束できないならー」
顔が、文字通り、目と鼻の先にある。
それでも止まる様子はない。
ーまって、もうこれ以上は、唇が当たるー
「す、する!するから、約束!!」
「ほんと?」
「ほんとに!だからもう退けろばかー!」
わたしは唇が当たるギリギリのところで、たまらずその約束を飲んだ。
律の思惑通り、手のひらの上……。
……くっそ悔しい……。
どうせキスもするつもりなかっただろうに、きっと律はわたしが直前で根負けするのをわかってたんだ。
弄ばれている、この人たらしに。
わたしは、律と自分の両方に腹を立てながら、律を自分のベッドから追い出すと、蝋燭の火を「ぶーーっ!」っと雑に吹き消して、頭の上まで布団に潜り込んだ。
ー……まぁ、挨拶くらいはしてやるか。
人として、ね。
「おやすみ!」
片目だけ布団からチラリと見せて、最後にそう吐き捨てた。
「あははっ、おやすみ」
布団の向こうから、満足げな律の声が返ってきた。
こうして、波乱万丈な3日目も、無事(?)終わったのだった。
お読み下さりありがとうございます!!
やっと3日目終わりました。
これ書きはじめてから約1年3ヶ月で、やっと3日目です。
頭おかしくなりそう……。
改めて、ブックマークやいいね、評価やコメントを下さっている方々、本当にありがとうございます!!!
この先も、スローペースではありますが続いていくので、よかったらたまに覗きに来てくれたら嬉しいです!




