お風呂事情4
ヨナから律に引き渡されたわたしは、抵抗虚しくそのまま律の膝の上に収まった。
収まったというか、お腹に回された律の腕がわたしを逃がしてくれない。
どれだけ暴れても離れようとしても、鉄なんじゃないかと思うくらいビクともしない。
ほんとにどうなってるんだよこいつの身体は。
「それにしても、昨日に続いて波乱万丈な1日だったわねぇ。どうしようかしら……明日は1日お休みにする?それとも早速、ギルドに行って依頼でも受けてみる?」
アンリーヌが、自分の肩をもみもみしながらきいてくる。
やっぱり胸が大きいと肩が凝るのか……。
ていうか、私の背中にずーっと律の胸当たってるんだよな……。
違う違う、じゃなくて明日のことを考えないと!
ああもう集中できない、なんでわたしばっかり……。
「咲久?」
「は、はい!」
膝に乗せられているから当然だけど、背後から至近距離で律の声がしてびっくりする。
「私は体力無限だから別に明日からでもいいけど、咲久は結構疲れきてるでしょ?どうする?」
体力無限……1度は言ってみたい台詞だな……。
確かに、かなり疲れはたまっている。
精神的にも体力的にも、限界突破している。
でもー
「大丈夫、明日から働こう」
「あら、咲久ちゃんやる気満々ね」
「ま、まぁ、あはは……」
正直休みたいけど、働かないとお金が入らない。
この2日間でどれだけアンリーヌに出してもらっただろう……はやく稼いで返さないと。
それに、魔力検査での自分の結果が気になる。
まだ使い方すら分からないけど、すごい力を持っているんだとしたら、はやく実践してみたい。
こっちに来てから、わたしはずっと守られてばっかりだし……みんなの役に何も立ててないし。
はやく力を使いこなせるようになって、パーティーの皆に貢献して、逆に助けになれるようにならないと、このまま無能な状態でいたら、パーティーに居場所なんてなくなるんじゃ……。
どんなに皆が優しくて、もし咲久も大事なパーティーメンバーだから気にするな、なんて言ってくれたとしても、何の役にも立てずに依頼報酬山分けしてもらうとかになったら申し訳なさすぎて、わたしが逃げたくなってしまう。
「咲久」
「ん?何、律」
「本当に明日から働く?疲れてるようにみえるけど」
「だ、大丈夫。結構楽しみだし」
律には全部見透かされている気がして怖い。
わたしが皆に守られてばかりなことを気にしている事や、足でまといになりたくないと思っていることも、全部律は気がついている気がする。
わたしは、本音を探っているかのようにジト目で見つめてくる律から、慌てて目を逸らす。
「そ、それよも!アンリーヌたちの方が大丈夫?こっちの世界にきてから付き合わせてばっかりで……それぞれの予定とか仕事とか……」
「あら、それは平気よ。みんな本業が冒険者で、副業でそれぞれ色々やってたりするけど、咲久ちゃんたちが来る前から、週に4.5日は依頼を受けて冒険者として働いていたもの」
「そうなんだ、すご……それならやっぱり明日から働きたいな」
「うふふ、それじゃ決定ね。サックとゴルドにも通信魔法で報告しておくわ。ヨナもいいかしら?」
「まぁいいよ」
よし、明日は絶対に、魔術を使えるようになる!
覚醒したら、律より強くなったりするのでは……。
うん、大丈夫、楽しみになってきた。
「ひゃっ?!おい律?!」
律が、ガッシリとわたしのお腹にまわしていた腕をようやく解いてくれたかと思ったら、思いっきり胸を触ってきた。
「や、やめっ…やめろばかー!!」
わたしは思いっきり律をぶん殴って、律を振りほどいて距離をとって威嚇する。
「あ、ごめん、つい」
「つい?!」
「別にいいんじゃない、女の子同士なんだし。ヨナもアンリーヌの胸、ふわふわで気持ちいいからよく触る」
「うっ、それは……」
ヨナにそう言われると、気にしてるわたしが意識しすぎで恥ずかしい人みたいに思えてきた。
「え?いや、私は咲久の胸以外に興味ないけど」
「……?!」
わたしが絶句してフリーズしていると、ヨナがきょとんとした顔で言った。
「……?なんで?アンリーヌの方が大きいよ?」
「なんというか、大きさじゃないっていうかさ、小さくても、私はー」
「わーー!!ばかか!あほか!てか別に小さくないからな!Cはあるからなわたしだって!」
「えっ……ヨナ、Bなのに……。裏切られた気分」
「え、ごめん……ん?ごめん?と、とにかく、もうわたしは出る!どうぞごゆっくり!」
「待ってよ咲久、それなら私もー」
「着いてくるなー!!」
わたしの怒鳴り声とアンリーヌの笑い声とともに、わたしは異世界初の温泉を後にした。
お読み下さりありがとうございます!!
4回に渡るお風呂回、書くのめちゃくちゃ楽しかったです。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントを下さっている方々、本当にありがとうございます!




